研究課題/領域番号 |
23K28185
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補助金の研究課題番号 |
23H03495 (2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分62010:生命、健康および医療情報学関連
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
柳澤 渓甫 東京工業大学, 情報理工学院, 助教 (40866646)
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研究分担者 |
吉野 龍ノ介 筑波大学, 医学医療系, 助教 (50817575)
和久井 直樹 長岡工業高等専門学校, 電気電子システム工学科, 准教授 (80786038)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
18,590千円 (直接経費: 14,300千円、間接経費: 4,290千円)
2026年度: 4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2025年度: 4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2024年度: 5,200千円 (直接経費: 4,000千円、間接経費: 1,200千円)
2023年度: 5,200千円 (直接経費: 4,000千円、間接経費: 1,200千円)
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キーワード | 共溶媒分子動力学 / 環状ペプチド / 分子設計 / 創薬支援計算 / 標的タンパク質選抜 |
研究開始時の研究の概要 |
タンパク質間相互作用 (PPI) を標的とするような薬剤設計において、環状ペプチドが注目されている。RaPID法など、タンパク質に結合する環状ペプチドを実験的に発見することは可能であるが、どのような結合構造を示すかを知る必要がある。 本研究では、アミノ酸プローブを導入した共溶媒分子動力学シミュレーションと、タンパク質表面上におけるアミノ酸配置の組合せの最適化を行うことで、薬剤標的タンパク質の新規発見と、環状ペプチドの設計を同時に行う手法を開発する。従来独立に行われてきた標的タンパク質の探索と薬剤分子設計の同時実行は、標的タンパク質の選択に新たな指針を与え、薬剤分子設計を容易にするものである。
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研究実績の概要 |
本研究では、共溶媒プローブと呼ばれる小さな化合物部分構造によって相互作用面のホットスポット探索などが行える共溶媒分子動力学 (共溶媒MD) 法を活用する。従来プローブとして利用されてこなかった標準アミノ酸20種類をプローブ分子として用いた共溶媒MDを行い、各アミノ酸プローブが好むタンパク質表面を推定する。さらに、この推定結果を用いて薬剤標的として有望なタンパク質の新規発見、およびそのタンパク質に結合する環状ペプチドの設計を同時に行う手法を開発する。 <現在までの進捗状況> 2023年度は、「アミノ酸プローブの導入方法の検討」を主に行い、顕著な成果を得た。以下にその詳細を記す。 1)アミノ酸プローブを用いた共溶媒MDの実施:従来アミノ酸は共溶媒プローブとして利用されてこなかった。これは、プローブが内部構造自由度を持つとサンプリング効率が低下すると考えられていたためである。我々がアミノ酸プローブを実際に用いたところ、やはりサンプリング効率の低下は見られた。一方で多くの場合、従来の倍程度のサンプリングを行えば十分に意味のある解析結果(プローブ存在確率マップ)が得られることが見出された。 2)タンパク質と環状ペプチドとの既知結合に対する解析:前述のプローブ存在確率マップを用いて、結合構造が既に知られているタンパク質-環状ペプチド複合体7種類に対して、結合に寄与するアミノ酸種類の定性的推定、およびアミノ酸変化に対する結合親和性の定量的予測を実施した。その結果、標的タンパク質と十分に接触しているようなアミノ酸残基についてはアミノ酸種類まで推定が可能であること、および定量的な予測についても一定程度の相関を得ることが示された。本成果は計算創薬のトップ雑誌の1つである米国化学会の Journal of Chemical Information and Modeling 誌に採択・掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実施計画に基づき、「アミノ酸プローブの導入方法の検討」を実施し、想定以上の成果を得た。 まず、立体構造に柔軟性のあるプローブを用いて共溶媒分子動力学(共溶媒MD)法を実施することは一般に行われていないことから、その実行を行った。通常の(立体構造に柔軟性がない、剛体の)プローブと同様の設定では十分な解析結果が得られなかった。しかし、解析対象とする原子を側鎖のみに限定し、かつシミュレーションの総量を増大させたところ、タンパク質と環状ペプチドとの相互作用表面に高確率でアミノ酸プローブが存在するなどの適切な傾向が観測された。 続いて、シミュレーション方法を固定させた上で7件のタンパク質-環状ペプチド複合体構造に対してアミノ酸をプローブとした共溶媒MDを実施した。その結果、タンパク質と7割以上接触している環状ペプチドの残基は、84.2%もの高精度でその結合残基種類を推定することができることが示された。また、様々な環状ペプチドの結合親和性を相関係数 -0.42で推定することができた。これらの発見は論文にまとめられ、計算創薬のトップ雑誌の1つである米国化学会のJournal of Chemical Information and Modeling誌に採択・掲載されている。 また、既に述べたようにアミノ酸をプローブとして用いるためにシミュレーション総量を増大させる必要があった。このシミュレーションの追加量は対象とするアミノ酸によっても異なることが示唆されている。例えば、塩基性のアミノ酸はより長時間のシミュレーションが必要であることが観測された。これは、リジン・アルギニンはともに柔軟性が高く、一旦酸性部位と相互作用すると離れにくいために、サンプリング効率が低下することが原因であると推定された。このような知見は「柔軟なプローブ分子の導入による計算コスト増大の抑制」のために活用できる。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度の研究成果から、アミノ酸をプローブとした共溶媒MD法は実用的であることが確認できた。この方法を多数のタンパク質に拡げていくことが2024年度以降の大きな課題となる。 まず「インバース共溶媒MDのアミノ酸に対する拡張」を進める。インバース共溶媒MDとは、プローブの周囲のどのあたりにタンパク質のどの残基が存在しやすいか?を推定・プロファイル化するものである。研究代表者の柳澤は既にインバース共溶媒MD法を提案しているものの、この手法は柔軟性が無いプローブに特化しており、柔軟性への対応が必須となる。この対応の方策として、(1)プローブの原子単位のプロファイルを作成する、(2)プローブが持つ立体構造を、類似度をもとにグルーピングする、という2つの方策が考えられる。これらの2つの方策を検証しながら、柔軟な構造を持つアミノ酸への手法拡張を実現する。 続いて「インバース共溶媒MDを用いた相互作用エネルギー計算方法の提案」を開始する。タンパク質と環状ペプチドとの結合親和性を推定するためには、環状ペプチドを構成するアミノ酸それぞれの結合自由エネルギーを推定することが必要である。2023年度の時点ではこのエネルギーを、共溶媒MD法を用いて算出していた。しかし、これではタンパク質毎にシミュレーションを実行する必要があり、多数のタンパク質に適用することは困難である。そこで、インバース共溶媒MDのプロファイルを用いて、追加のシミュレーションを行うこと無く相互作用エネルギーを推定する方法を提案する。既に柔軟性の無いプローブを用いて手法の提案を開始しており、その性能評価や手法の改良を第一に行う。続いて、アミノ酸などの柔軟性を持つプローブに拡張していくことを想定している。 これらの手法開発の中で蓄積されたシミュレーションデータを用いることで「計算コスト増大の抑制」方法の検討・検証も進める予定である。
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