研究課題/領域番号 |
23K28190
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補助金の研究課題番号 |
23H03500 (2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分62010:生命、健康および医療情報学関連
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
石川 岳志 鹿児島大学, 理工学域工学系, 教授 (80505909)
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研究分担者 |
石橋 大輔 福岡大学, 薬学部, 教授 (10432973)
水田 賢志 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(医学系), 助教 (50717618)
鎌足 雄司 岐阜大学, 糖鎖生命コア研究所, 助教 (70342772)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
18,720千円 (直接経費: 14,400千円、間接経費: 4,320千円)
2025年度: 5,850千円 (直接経費: 4,500千円、間接経費: 1,350千円)
2024年度: 4,940千円 (直接経費: 3,800千円、間接経費: 1,140千円)
2023年度: 7,930千円 (直接経費: 6,100千円、間接経費: 1,830千円)
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キーワード | プリオン病 / 化学シャペロン / 分子動力学計算 / ファーマコフォアモデル / 有機合成 |
研究開始時の研究の概要 |
申請者らはこれまでプリオン病の治療薬開発を続けてきたが、シード化合物を発見した後の合成展開の効率化に課題が残り、未だ有効な治療薬の開発には至っていない。合成展開を効率化するためには、ファーマコフォアモデルの構築が望まれるが、化学シャペロンである抗プリオン薬の場合、一般的な酵素阻害薬などに比べてモデルの構築は困難である。そこで本研究では分子動力学計算を利用した独自のインシリコ技術を用いて、化学シャペロンにも有効なファーマコフォアモデルの構築法を確立する。さらに有機合成・生物アッセイ・構造生物学の専門家と連携し、その有効性を検証する。
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研究実績の概要 |
申請者らはこれまでプリオン病の治療薬開発を続けてきたが、臨床試験に移行できるような決定的な化合物の取得には至っていない。その理由の一つが、シード化合物取得後の合成展開の効率化が不十分だったことである。合成展開を効率化するためには、ファーマコフォアモデルの構築が望まれるが、化学シャペロンである抗プリオン薬の場合、一般的な酵素阻害薬などに比べてモデルの構築は困難である。 そこで本研究では、化学シャペロンにも有効な新たなファーマコフォアモデルの構築法を確立する。具体的には各化合物に関して、高温の分子動力学(MD)計算を何度も実行し独自の基準値である「コンタクト数」を算出することで、創薬標的である正常型プリオンタンパク質(PrPC)との相互作用を定量的に解析しファーマコフォアモデルを構築する。さらに有機合成・生物アッセイ・構造生物学の専門家と連携し、この方法の有効性を検証するとともに、臨床試験に移行できる新たな抗プリオン化合物を創出する。 2023年度(本研究の1年目)は、コンタクト数の算出に使う4つのパラメータの最適な値を決定した。また、以前に報告されている5つの抗プリオン化合物(GN8シリーズ)に関してコンタクト数を算出し、実験的に測定された抗プリオン活性と有意な相関があることを確認した。 2024年度以降は、化学シャペロンとしての能力を数値化する方法を導入する。さらに、現在開発中の抗プリオン化合物(NPRSシリーズ)に関して上記の計算手法を適用する。つまり、合成予定のNPRSシリーズの抗プリオン活性を計算からあらかじめ予測することで合成コストの軽減を実現するとともに、高い抗プリオン活性を有する分子構造を計算から提案することで効率的に新規化合物を創出することをめざす。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、分子動力学(MD)計算を利用した化学シャペロンにも有効なファーマコフォアモデルの構築法を確立する。この方法では、抗プリオン効果を有するシード化合物を創薬標的であるPrPCから十分離れた初期位置に配置し、MD計算を高温で実行する。化合物がPrPCに接近し安定な結合構造を形成すればその位置に長時間滞在する。一方、安定な結合構造を形成できなければ短時間で離れ他の場所へ移動する。従って、このような計算を様々な初期位置から何度も実行することで、各化合物とPrPCとの相互作用の特徴を数値化し、ファーマコフォアモデルの構築に繋がると期待される。具体的にはPrPCと化合物のコンタクトの回数と時間を定量化した独自の基準値である「コンタクト数」を算出し、相互作用の特徴を解析する。 このようなMD計算およびコンタクト数算出のためのプログラム自体は、本研究の開始以前に作成済みであったが、コンタクト数を算出するための設定条件(MD計算の温度、試行回数、コンタクトの基準に使う距離と時間のパラメータ)の検証が不十分であった。そこで本研究の1年目である2023年度は、まずこれら設定の検証を行った。その結果、MD計算の温度は400K、試行数は26、コンタクトの基準に使う距離は2.5Å、時間は1ナノ秒が適切な設定であることが確認された。 次に、抗プリオン効果が実験的に測定済みである5つの化合物(GN8シリーズ)に対してコンタクト数の算出を行った。その結果、抗プリオン効果とコンタクト数の相関(R2)は0.5538であった。一方、単純なドッキング計算と抗プリオン効果はほとんど相関しなかった(R2が0.0002であった)。この結果は、コンタクト数が抗プリオン化合物開発におけるファーマコフォアモデルの構築に有効であることを示唆している。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、化学シャペロンにも有効な新たなファーマコフォアモデルの構築法を確立する。2023年度の研究で、抗プリオン効果と相関することが確認されたは「コンタクト数」は、基本的に標的であるPrPCと化合物の親和性の高さを反映する数値である。一方、抗プリオン効果を有するためには、PrPCの構造変化を抑制する化学シャペロンとして働くことも重要となる。従って、より信頼正の高いファーマコフォアモデルの構築には、化学シャペロンとしての能力を数値化する必要がある。 本研究では、高温の分子動力学(MD)計算を用いることで、各化合物の化学シャペロンとしての能力を予測する。具体的には、化合物とPrPCの結合が維持されるような拘束条件の下で、高温のMD計算を実行し、PrPCの構造変化の度合いを数値化する。コンタクト数とこの数値を用いることで、実験的に計測される抗プリオン活性と、より高く相関する独自の基準値を構築することができると考えられる。2024年はこのような研究を進める。 また上記のような計算方法の開発と平行して、NPRSシリーズの誘導体のうちコンタクト数が高くなる化合物を計算から選択し、分担研究者の水田に合成してもらう。合成された化合物の抗プリオン活性は、分担研究者の石橋に測定してもらう。これにより、抗プリオン活性の高い化合物を複数見いだす。このうち特に活性の高いものに関しては、分担研究者の鎌足に複合体構造を調べるためのNMR測定を依頼し、作用機序を確認する。このようなプロセスを通じて、臨床試験への移行が可能な新規化合物を取得する。
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