研究課題/領域番号 |
23K28213
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補助金の研究課題番号 |
23H03523 (2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分63010:環境動態解析関連
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
中川 書子 名古屋大学, 環境学研究科, 准教授 (70360899)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
18,460千円 (直接経費: 14,200千円、間接経費: 4,260千円)
2026年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2025年度: 6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
2024年度: 5,980千円 (直接経費: 4,600千円、間接経費: 1,380千円)
2023年度: 5,070千円 (直接経費: 3,900千円、間接経費: 1,170千円)
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キーワード | 二酸化窒素 / 一酸化窒素 / オゾン / 三酸素同位体組成 / 対流圏 / 都市大気 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、大気中の二酸化窒素の生成反応を定量的に判別できる新指標として二酸化窒素および一酸化窒素の三酸素安定同位体組成に着目し、この実測に世界で初めて挑戦する。本研究が実現することで、対流圏オゾンの生成反応をはじめとした対流圏窒素酸化物の光化学反応過程を、既存の数値モデルとは独立に把握できる。既存の数値モデルの検証が実現し、より確度の高い将来予測につなげることができる。また、不均一反応のように、反応速度定数の決定が難しい反応が関与する場合でも、大気光化学反応過程が解明できる。これは大気光化学反応過程解析に革新的な進歩をもたらすものであり、大気化学や地球環境科学に新時代を切り拓く。
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研究実績の概要 |
対流圏オゾンは、温室効果ガスであると同時に光化学オキシダントとして大気の酸化力をコントロールしている物質であり、その増減は大気環境や生態系に多大な影響を及ぼしている。対流圏オゾンは、主に一酸化窒素と有機過酸化ラジカルとの反応で生成した二酸化窒素が光解離する過程で生成することから、二酸化窒素の生成過程を把握しないと、オゾンがどこでどのように生成・消滅しているのかを定量的に理解することができない。そこで本研究では、大気中の二酸化窒素および 一酸化窒素の三酸素同位体組成の定量化手法を確立し、二酸化窒素の主要生成経路(オゾンによる酸化反応か、有機過酸化ラジカルによる酸化反応か)を判別し、その相対寄与率を直接見積もることに挑戦した。一酸化窒素とオゾンの反応で生成した二酸化窒素の三酸素同位体組成は、一酸化窒素の三酸素同位体組成とオゾンの三酸素同位体組成(+36パーミル程度)の平均値となる。一方、一酸化窒素と有機過酸化ラジカルの反応で生成した二酸化窒素の三酸素同位体組成は、一酸化窒素の三酸素同位体組成と有機過酸化ラジカルの三酸素同位体組成(0パーミル)の平均値となることから、二酸化窒素の生成に占める有機過酸化ラジカルによる酸化反応の寄与率を見積もることが可能となった。名古屋市の大気観測を都心(若宮大通公園[自動車排出ガス測定局])と郊外(名古屋大学[一般環境大気測定局の近く])で行ったところ都心域および郊外域の両地点において0パーミルより有意に高い値であり、オゾンが生成反応に寄与していること確認された。また、両地点において一酸化窒素が二酸化窒素へ酸化される過程でオゾンおよび有機過酸化ラジカルの両方が寄与していることが分かった。有機過酸化ラジカル酸化反応の寄与率を見積もったところ、都心域で4割、郊外域では3割程度であることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
初年度(2023年度)の目標は、まず二酸化窒素および一酸化窒素の三酸素同位体組成分析法の開発を行うことである。本申請者らが開発した粒子状硝酸・ガス状硝酸・ガス状亜硝酸捕集用のフィルターパックの後段に、 窒素酸化物の濃度観測用に用いられている捕集試薬〔二酸化窒素捕集用:トリエタノールアミン(二酸化窒素を亜硝酸に変換), 一酸化窒素捕集用:PTIO(一酸化窒素を二酸化窒素に変換)+トリエタノールアミン〕を含浸させたろ紙を設置し、二酸化窒素および一酸化窒素を亜硝酸として捕集し、その三酸素同位体組成を高感度分析法により定量することを計画した。最適な捕集速度(1.5 L/min)やフィルターの枚数(二酸化窒素捕集用フィルター:5枚、一酸化窒素捕集用フィルター:3枚)、亜硝酸ブランクの補正方法を決定し、二酸化窒素および一酸化窒素の三酸素同位体組成分析法を開発するという目標は十分に達成されたと考えられる。さらに、名古屋市の大気観測を、都心(若宮大通公園)と郊外(名古屋大学)で毎月行い、それぞれの地点について昼夜別に、二酸化窒素の主要生成経路(オゾンによる酸化反応か、有機過酸化ラジカルによる酸化反応か)を判別し、その相対寄与率を直接見積もることに成功するほか、その他の反応性窒素酸化物(ガス状硝酸や亜硝酸、粒子状硝酸)の反応過程についても実測データをもとに定量的に追跡することに成功しており、当初の研究計画以上に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
2年目以降は、本研究で新規開発した二酸化窒素および一酸化窒素の三酸素同位体組成分析法を用いて大気観測を行う。大気試料は昼夜別に採取して二酸化窒素および一酸化窒素の三酸素同位体組成およびオゾンの三酸素同位体組成を実測する。そして、二酸化窒素の生成に対する「有機過酸化ラジカルによる酸化反応の寄与率」を算出し、観測大気における正味のオゾン生成の有無および正味のオゾン生成速度を算出する。 初年度に引き続き、愛知県名古屋市で月1回の頻度で観測を行う。窒素酸化物類や揮発性有機炭素化合物の濃度が異なる2地点(都心の若宮大通公園と郊外の名古屋大学)で観測を行い、比較する。特に、自動車や工場から窒素酸化物類や揮発性有機炭素化合物などの汚染物質が放出され、これらがオゾン生成に与える影響を定量的に評価する。これに加えて、2年目の後半からは、北海道札幌市(北海道環境科学研究センター)でも観測を行う予定である。申請者らの先行研究で、名古屋市および札幌市でガス状亜硝酸と二酸化窒素の三酸素同位体組成を観測したところ両都市間で大気化学反応環境が有意に異なることが確認されたことから、札幌市は名古屋市と大気環境が大きく異なると考えられることから札幌市でも観測を行い、実証する計画である。 多段フィルターパック法で捕集した各窒素酸化物の濃度をイオンクロマトグラフ法により定量し、現場で連続観測した窒素酸化物類・オゾン濃度等の基本データと比較・検証する。その上で、連続フロー型の三酸素同位体組成定量システムを用いて、一酸化窒素・二酸化窒素・オゾンの三酸素同位体組成を定量して「有機過酸化ラジカルの寄与率」を見積もり、観測大気における正味のオゾン生成の有無および正味のオゾン生成速度を算出する。結果をもとに、各大気環境下のオゾンに対する越境汚染等の影響を評価する。本研究で新しく開発した分析法は学会で報告する他、欧文誌に投稿する。
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