研究課題/領域番号 |
23K28250
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補助金の研究課題番号 |
23H03560 (2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分64010:環境負荷およびリスク評価管理関連
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研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
中村 崇 琉球大学, 理学部, 准教授 (40404553)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
7,800千円 (直接経費: 6,000千円、間接経費: 1,800千円)
2025年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2024年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2023年度: 4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
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キーワード | マイクロプラスチック / サンゴ病気罹患 / ビブリオ菌 / コユビミドリイシ / ホワイトシンドローム / サンゴ / 地域的環境負荷源 / 病気 / サンゴ礁 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究で対象とするサンゴ礁域では、今世紀に入ってからサンゴにおける病気罹患の報告が世界的に増加、影響も深刻化しつつあり、視認可能なサイズのプラスチックごみが常態的に見つかる海域周辺で特に病気罹患サンゴが多く見つかる傾向が示されている。そこで本研究では、サンゴ礁生態系で近年危惧されるサンゴの病気罹患率増加に関連し、「プラスチックがサンゴへの病原性バクテリアの運び手になりえるのか?」という問いに対して生態学的な調査と生理学的な実験を組み合わせたアプローチで挑む。
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研究実績の概要 |
マイクロプラスチック(MP)がサンゴに及ぼす影響、病気罹患過程においてMPが病原菌を媒介するベクターとして働く可能性などについての知見は限られている。そこで本研究では野外におけるサンゴの病気罹患状況や底質中に含まれるMP量の確認に加えて、MPがサンゴへ与える潜在的な影響について検討した。まず国内外での調査データの解析を行い、野外サンゴ群集における病気罹患状況の確認を行った。採取したMPの分析に加え、紫外線による経時劣化がMP表面のバクテリア吸着性に及ぼす影響を明らかにするため、耐候促進試験機を用いた実験で評価した。また、様々な粒径のMPに対するサンゴの応答反応について、稚ポリプおよび成群体ポリプ等の試料を対象に顕微観察により確認した。成果概要は以下の通りである。 1)沖縄島周辺での調査結果から、底質中に含まれるMP量への河川影響が示唆された。 2)耐候性試験機による紫外線促進照射を行うことで紫外線劣化要因を考慮したMPの影響評価が可能であることが確認できた。 3)MPは紫外線劣化により表面の吸着活性が上昇し、ビブリオ菌等が吸着しやすい状態に変化していることが示唆された。 4)MPの取込み挙動について、セイタカイソギンチャクAiptasia pulchella とコユビミドリイシAcropora digitiferaでの観察を行った結果、①セイタカイソギンチャクとコユビミドリイシではMPを積極的に取り込み、排出する、②コユビミドリイシでは生活史を通じて、成群体ポリプ共にMPを積極的には取り込まず、除去行動を取ることが示され、同じ刺胞動物でもMPに対する応答反応が異なることが明らかとなった。 上記成果の一部を国内および国際学会で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2023年度の研究では、海域中におけるMP(マイクロプラスチック)量の調査に加えて、MPへの暴露がサンゴに与える潜在的影響について、主にビブリオ菌との相互作用の観点から検討を行うことを目指して実施した。 はじめに、沖縄島周辺での海域調査により病気罹患状況の把握と底質サンプルの採取・FT-IRを用いた素材分析をおこなったことで、ポリエチレン素材などのMPが一定量サンゴ礁環境中に存在することが確認され、ミドリイシ属などを中心としたサンゴでのホワイトシンドローム(WS)等が相対的に高い状況が確認された。 また、MPの経時劣化がMP表面のビブリオ菌吸着性に及ぼす影響について、ポリエチレン(以下PEと称す)に紫外線を加速照射する促進試験機を用いて評価を行った。実験の結果、紫外線の加速照射によりビブリオ菌の吸着性が上昇したことから、廃棄されたまま経時劣化したMPは廃棄前に比べてバクテリアが吸着しやすい状態に変化していることが示唆された。 加えて、MPに対するサンゴポリプの応答反応について、セイタカイソギンチャク(Aiptasia pulchella)、コユビミドリイシ(Acropora digitifera)の稚ポリプおよび成群体に対してPE微粒子を滴下し、その挙動を顕微鏡により観察した。イソギンチャクでは積極的な取込み・排出行動が観察されたが、コユビミドリイシでは取込み行動はわずか2個体でしか確認されず、隔膜糸を用いた積極的なMP除去行動が数多く観察された。一連の結果から、同じ刺胞動物であるセイタカイソギンチャクとコユビミドリイシではMPに対するポリプの応答反応に違いがあることが示唆された。 さらに、実際にサンゴ稚ポリプだけでなく、成群体を飼育しながらMP暴露が可能な実験系を確立し試運用出来たことから、当初計画よりも進捗していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
現時点でWSに罹患していた群体からのバクテリア分離とサンゴへの暴露を行うための実験系が確立され、予備的な実験を進めているところである。今後、WSサンゴ感染症の病原体の一つであるビブリオ菌Vibrio coralliilyticusとMPを混合した水槽実験を行うことで、MPが感染症の罹患に及ぼす影響を明らかにすることを目指す。 また、サンゴ種間での病気罹患の差異について明らかにすべく追加実験を行っていくことで、実海域におけるMP量基準値や、病気リスクに準じたガイドライン制定、MP汚染影響の低害化に向けた科学的基盤が得られると考えている。
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