研究課題/領域番号 |
23K28260
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補助金の研究課題番号 |
23H03570 (2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分64020:環境負荷低減技術および保全修復技術関連
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
藤谷 拓嗣 中央大学, 理工学部, 助教 (50708617)
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研究分担者 |
諏訪 裕一 中央大学, 理工学部, 教授 (90154632)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
18,850千円 (直接経費: 14,500千円、間接経費: 4,350千円)
2026年度: 2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
2025年度: 4,810千円 (直接経費: 3,700千円、間接経費: 1,110千円)
2024年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
2023年度: 8,320千円 (直接経費: 6,400千円、間接経費: 1,920千円)
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キーワード | 硝化 / comammox / 酸性 / 分離 / ゲノム / アンモニア / 活性汚泥 / 土壌 / 尿素 |
研究開始時の研究の概要 |
従来,アンモニア酸化と亜硝酸酸化はそれぞれ異なる微生物によって反応が起きると考えられてきた。近年,両反応を一つの微生物が担う完全アンモニア酸化(comammox)菌の存在が明らかとなり注目を集めている。一方,農耕地や排水処理槽では,酸性条件で硝化が進行している実態があるにも関わらず,ごく最近まで中性付近に至適pHを持つ硝化菌株しか分離されてこなかった。本研究では,酸性条件で硝化を担う中心的な役割を持つ微生物がcomammox菌であると考え,純粋培養株を分離し,動力学的解析とゲノム解析を実施する。さらに生理学的検討も加え,酸性条件で硝化が進行するメカニズムを解き明かす。
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研究実績の概要 |
comammox菌の分離に使用する研究材料として,排水処理場由来の活性汚泥に加え,新たに畑土壌も選択した。活性汚泥サンプルでは,前年度までにpH5.5で硝化活性を示すcomammox集積培養を得ていた。しかし,comammoxリアクターからの流出液を基礎培地にした培地で得たものであり,無機培地での回分培養で集積を維持できるかが,次の課題であった。アンモニアと尿素を基質とした各培地で培養したところ,どちらもcomammox菌の集積を維持することができた。また,comammox集積培養から継代を経てアンモニア酸化細菌(AOB)であるNitrosospiraを含む培養(EF975)を獲得した。EF975から限界希釈し,16S rRNA遺伝子のクローン解析を実施したところ,AOBは1種であり,既存のNitrosospira lacusとの相同性は98.1%であった。この株は,pH5.5-7でアンモニア酸化活性を示す,中程度の好酸性AOBであった。 畑土壌サンプルでは,基質にアンモニアと尿素の2種類を使用し,それぞれpH7.6とpH5.5に調整した4種類の培地でMPN計数した。その結果,pH5.5で多数の硝化菌を培養でき,アンモニウよりも尿素を用いた方が高い計数値を得た。pH5.5かつ尿素で生育する硝化菌に着目し,数回の継代を経てPCRを実施したところ,17本の培養でcomammox菌が検出された。特に硝酸濃度が高く高希釈懸濁液由来の培養2本のうち,1本(D51)ではcomammox菌以外の硝化菌は検出されなかったことから,D51を分離源として選抜した。D51を継代培養した3本についてアンプリコン解析を実施したところ,いずれも硝化菌はcomammox Nitrospira(1種類)のみが優占していた(23.9 ~ 48.8%)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
理由1)これまでcomammox菌の集積はcomammoxリアクターから排出された流出液を基礎培地にした培養に依存していた。培地の再現性の観点から,完全な無機培地での培養を確立する必要があり,今年度はこれを成し遂げることができた。またcomammox集積培養に含まれるAOBを分離することができ,弱酸性側に至適pHを持つNitrosospira属であることが判明した。系統学的にも生理学的にも新規なAOBがcomammoxと共存していたことは,基質であるアンモニアの競合の観点から生態学的にも興味深い結果となった。一方で,comammox菌の分離に向けて,菌体密度を高める具体的な培養方法を確立する必要性が生じた。当初の想定よりも,comammox菌の増殖速度は遅く,厳密なアンモニア濃度を要求する可能性があり,comammox菌の分離戦略を再考しなければならない。
理由2)畑土壌を利用した培養では,pH5.5で尿素を基質とした培養条件がcomammox菌の培養に適していたことを見出した。実際の環境においても,同様の環境条件で生息している例が多く,酸性で硝化活性を発揮する菌を確実に培養できていることを意味する。これまで回分培養でcomammox 菌の菌体密度を高めた報告例はなく,培養方法の優位性が示された。さらに,amoA遺伝子を対象とした系統解析から,培養が確認されたcomammox菌はclade Aに属し系統学的な新規性を持つことが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
今後は,分離株候補である活性汚泥由来のアンモニア酸化細菌Nitrosospira sp. RK27と,畑土壌由来のcomammox Nitrospira sp. F23を対象に研究を進める。両株について,検討課題の多くは重複しており,ここではまとめて記述する。 ・獲得した分離株(RK27, F23)の純度を証明する。16S rRNA遺伝子,Bacterial amoA遺伝子(RK27),comammox amoA遺伝子(F23)を対象にクローン解析を行う。従属栄養細菌の培養に用いる培地を用いて,従属栄養細菌が増殖しないことを確認する。また,蛍光in situハイブリダイゼーション法による顕微鏡観察によって,Nitrosospira(RK27),comammox Nitrospira(F23)の細胞のみが検出されることを確認する。 ・RK27については,菌体密度を上げ培養容積を大きくさせることが喫緊の課題である。RK27の最適な培養条件を見出す必要性があり,pH5.5-7での至適pH,および基質として尿素を利用する可能性について検討する。菌体密度と培養容積を確保した後は,RK27の生理学的解析とゲノム解析を実施する。特に,これまで報告されている既存のNitrosospira株と比較解析し,RK27の新規性を明確にする。 ・F23については,pH5.5で尿素を基質とした培養条件でcomammox菌の菌体密度を上げ,スケールアップに取り組む。回分培養でcomammox Nitrospiraの菌体密度を上げた報告例はないことから,菌株のlostが起きないよう慎重に進める。スケールアップ完了後は,計画通りcomammox菌の動力学的解析とゲノム解析を進める。
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