研究課題/領域番号 |
23K28402
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補助金の研究課題番号 |
23H03713 (2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分90110:生体医工学関連
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
藏田 耕作 九州大学, 工学研究院, 教授 (00368870)
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研究分担者 |
村越 道生 金沢大学, フロンティア工学系, 准教授 (70570901)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
18,590千円 (直接経費: 14,300千円、間接経費: 4,290千円)
2026年度: 3,770千円 (直接経費: 2,900千円、間接経費: 870千円)
2025年度: 3,770千円 (直接経費: 2,900千円、間接経費: 870千円)
2024年度: 5,460千円 (直接経費: 4,200千円、間接経費: 1,260千円)
2023年度: 5,590千円 (直接経費: 4,300千円、間接経費: 1,290千円)
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キーワード | 腫瘍治療電場 / 細胞膜電位 / 交流電界 / がん治療 / 細胞死 |
研究開始時の研究の概要 |
この研究では,わずか1V/cmの弱い電界でがんをほとんど非侵襲的に治療する腫瘍治療電場の新しいメカニズムを確かめ,その効果を最大化するための電界の決定方法を検討しようと計画している.そのために,外部電界に誘導される細胞膜電位の大きさと細胞の生死との関係を実験と解析から明らかにする.この成果は,弱い電界を体外から当てておくだけでがんが消えるという画期的な無侵襲がん治療の実用化に大きく貢献すると思われる.
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研究実績の概要 |
2023年度は(1)がん細胞と正常細胞の静止膜電位の違いをパッチクランプ法によって確かめ,(2)2つの細胞に電界を印加したときの誘導膜電位の違いを測定するための実験系の検討を行った. (1)では,2種の腫瘍細胞と3種の非腫瘍細胞を用いた.ホールセルパッチクランプ法によって細胞膜に-80mVから+60mVの電圧を加えたときの電流値を記録し,電圧-電流の関係から膜抵抗および静止膜電位を求めた.その結果,腫瘍細胞の膜抵抗は非腫瘍細胞のそれよりも小さい傾向にあった. これは,細胞膜の組成の違いや電圧感受性の違いによるイオンチャネルの活性化のプロセスが異なることを示唆する.一方,静止膜電位に関しては,当初予想していたような腫瘍細胞が非腫瘍細胞よりも脱分極しているという傾向は見られなかった.しかしながら,静止膜電位の大きさには細胞種毎の違いが認められ,-80mVから-45mVを示していた. (2)では細胞培養チャンバーを用いて顕微鏡下で温度とCO2濃度を一定に維持しながら,膜電位感受性蛍光色素を用いて膜電位を経時的に測定する実験系を構築した.また細胞培養ディッシュに電極を設置し,細胞に交流電界を印加しながら培養できることも確認した.電界印加の効果に関しては,3V/cm,300kHzの交流電界をA549細胞に72時間印加した際に,その細胞数は電界を印加しない対照群と比較して約半分であった.また,10秒ごとに方向を変えながら印加した二方向印加群では,一方向印加群と細胞数に有意差はなかった.これは誘電泳動力以外の,電界印加方向にとらわれないメカニズム,すなわち,電気泳動力や誘導膜電位が細胞増殖抑制に関与していることを示唆している.さらに,24時間印加し続けると最大の効果が得られるが,1日あたり18時間の印加をするならば6時間あるいは12時間の印加でも効果は変わらないことが明らかになった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り,がん細胞と正常細胞の静止膜電位の違いをパッチクランプ法によって測定することができた.がん細胞と正常細胞で静止膜電位に明瞭な違いは認められなかったものの,細胞種による違いは確認できたので,今後の研究を進める上で支障はない. このように静止膜電位の異なる2種類の細胞に電界を印加したときの誘導膜電位の違いを確かめる実験では,計画通りの実験系を構築することができた.実際に誘導膜電位の違いを蛍光強度変化から測定するまでには至らなかったが,電界印加方向の効果や印加時間の効果に関して当初の計画をさらに押し進めた実験を行うことができた.
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今後の研究の推進方策 |
昨年度は(1)がん細胞と正常細胞の静止膜電位の違いをパッチクランプ法によって確かめ,(2)2つの細胞に電界を印加したときの誘導膜電位の違いを測定するための実験系の検討を行った.そこで2024年度は(2)の研究をさらに進めるとともに,(3)数値シミュレーションによる印加条件の最適化に取りかかる. (2)では,外部から種々の条件で交流電界を印加したときの誘導膜電位の大きさの違いをがん細胞と正常細胞で測定する.昨年度に開発した顕微鏡下において電極を介して細胞に交流電界を印加できる実験系を用いて,交流電界印加時の膜電位の変化を膜電位感受性蛍光色素の蛍光強度変化によって計測す る.そして,電界強度,周波数,細胞外液の電気的特性(導電率)が誘導膜電位の大きさに与える影響を明らかにする.さらに,抗がん剤パクリタキセルや金属ナノ粒子を添加して同様の実験を行い,アジュバント(薬剤併用)の相乗効果を明らかにする. (3)では,有限要素モデルを用いた数値解析によって細胞内の電界強度や膜電位の大きさを計算できるようなシミュレーション系を構築する.これには,まず細胞の実形状を共焦点レーザー顕微鏡で計測して三次元解析モデルを作る.解析に用いる細胞内外と細胞膜の電気的特性や細胞膜の厚さなどは文献値から引用するが,これらには変動(外乱)が生じうるものと考える.そして電界の周波数と細胞外液の電気的特性は制御できる因子と考えて,タグチメソッドに基づいた直交表を作り,シミュレーションを行う.この結果を用いて,細胞の大きさや電気的特性が変動しても十分な大きさの誘導膜電位を得られるような周波数と細胞外液の電気的特性の条件を明らかにする.この条件を用いれば,外乱に左右されないロバスト(頑強)ながん治療が実現されることになる.
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