研究課題/領域番号 |
23K28409
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補助金の研究課題番号 |
23H03720 (2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分90110:生体医工学関連
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
船本 健一 東北大学, 流体科学研究所, 准教授 (70451630)
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研究分担者 |
立川 正憲 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(薬学域), 教授 (00401810)
新妻 邦泰 東北大学, 医工学研究科, 教授 (10643330)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
18,720千円 (直接経費: 14,400千円、間接経費: 4,320千円)
2026年度: 3,640千円 (直接経費: 2,800千円、間接経費: 840千円)
2025年度: 3,640千円 (直接経費: 2,800千円、間接経費: 840千円)
2024年度: 5,200千円 (直接経費: 4,000千円、間接経費: 1,200千円)
2023年度: 6,240千円 (直接経費: 4,800千円、間接経費: 1,440千円)
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キーワード | マイクロ・ナノデバイス / 細胞・組織 / 生物・生体工学 / 血液脳関門 / 計測融合シミュレーション / マイクロ流体デバイス / 微小血管網 / 虚血再灌流 |
研究開始時の研究の概要 |
虚血再灌流は脳内の微小血管網に酸素濃度の急変と力学的・化学的な刺激を生じ、物質交換(血管透過性)を制限して脳を保護する血液脳関門(Blood-Brain Barrier (BBB))を破綻させるが、その機序は完全には理解されていない。本研究では脳内の微小血管網を模擬するBBB模擬チップを高度化し、時空間変化する酸素濃度と血流による微小血管網の動態と機能の変化を計測する。また、計測データを数値解析にフィードバックする計測融合シミュレーションにより、細胞周囲の酸素濃度場と流れ場の詳細を再現する。これらによりBBBの調節機序を解明し、高次脳機能障害の予防と治療に貢献する血管透過性の制御法を創成する。
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研究実績の概要 |
脳内の微小血管網で生じる虚血再灌流を忠実に再現する実験手法の確立に取り組んだ。BBB模擬チップのゲル流路内に形成する微小血管網が灌流可能な構造となるためには、メディア流路に形成する血管内皮細胞との単層の接続が非常に重要であり、その後の微小血管網の物質透過性の定量評価に大きな影響を与えた。そこで、播種する細胞密度やタイミングについて、比較的簡便な方法としてヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)と正常ヒト肺線維芽細胞(NHLF)を用い、詳細な検討を行った。GFP遺伝子を導入したHUVECによる微小血管網の形成過程のリアルタイム観察の結果、培養開始後24-36時間にかけて細胞の増殖と細胞同士の接合が進み、45時間後には血管のネットワーク構造が観察された。単層の形成は、微小血管網がある程度形成された後の培養開始後4-5日後が良く、その後は3日以上培養することで微小血管網との接続が促進されて、灌流可能な微小血管網の形成確率が高くなった。さらに、形成した微小血管網に対し、チップ内のガス流路に混合ガスを供給することで、様々な酸素濃度の定常な状態や、30分間隔で酸素濃度を0%から21%に切り替えて低酸素化と再酸素化を生成した.各条件を3時間負荷した後、蛍光標識デキストランをメディア流路に注入して血管の物質透過率を計測した結果、物質透過性は酸素濃度1%の低酸素条件において最大となり、常酸素条件と比較して繰り返し低酸素条件では低い傾向が得られた。また、細胞内の酸化ストレス応答転写因子Nrf2の核内移行を免疫蛍光染色により観察すると、低酸素条件においてその割合が高く、酸化ストレス応答が起きていることが示唆された。さらに、活性酸素種(ROS)の発生を蛍光標識して顕微鏡観察した結果、繰り返し低酸素条件ではROSは変動しながら増加し続け、その発生が持続することが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
BBB模擬チップのゲル流路内に安定的に微小血管網を形成し、隣接するメディア流路に後から播種する血管内皮細胞と接続させることで、高確率で灌流可能な構造にすることが可能になった。また、その形成過程の細胞動態については、長期間にわたるリアルタイム観察を実施し、理解を深めることができた。ゲルの界面を血管内皮細胞の単層でより確実に覆うことが可能になったことで、ゲル内に直接漏れ入る培養液の流れを抑え、微小血管網の物質透過率のより高精度な計測を実現した。その結果、繰り返し低酸素負荷の条件では物質透過性が低く抑えられる可能性のような、これまでの知見とは異なる結果が得られた。また、その背景にある生化学的なメカニズムについても、蛍光顕微鏡観察により考察を進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、BBB模擬チップを用いて、脳内微小環境における虚血再灌流を再現した際の微小血管網の動態と機能の変化について調べる。予備的な検討に用いたHUVECとNHLFの共存培養に加え、これまでの知見に基づいて、ヒトiPS細胞由来の血管内皮細胞、ペリサイト、アストロサイトを共存培養して実験を行う。細胞実験では、チップ内に形成した微小血管網に対し、酸素濃度と流れの変化を負荷する。酸素濃度は定常な状態に加え、虚血再灌流を模擬して低酸素負荷のレベルと期間(数10分から数日)、再酸素化時の酸素濃度の上昇の度合と速さ、繰り返し回数を変える。流れの状態は、細胞培養液の流量と成分を調整して力学的な刺激(せん断応力2 Pa以下,間質流5 μm/s以下)と化学的な刺激(血糖値の変化を模擬するグルコース濃度)を負荷する。ここで、灌流時にも低酸素環境を維持するため、細胞培養液中の酸素濃度を予め調整する流路を別に設け、チップと接続することを検討する。時系列の顕微鏡画像から微小血管網の動態を計測するとともに、微小血管網に注入した蛍光標識デキストランのゲル内への拡散を定量化して透過性を計測する。また、免疫蛍光染色やウェスタンブロッティングにより、血管透過性を制御する細胞内タンパク質の発現・局在・活性を分析し、マイクロアレイまたはRNAシークエンスを用いることで遺伝子の即時的な変化を評価する。これらを踏まえて、障害発生への関与が考えられるシグナル伝達について考察する。さらに、実験中の酸素濃度場と流れ場を詳細に把握するため、上述の微小血管網の蛍光顕微鏡画像に基づいて3次元の計算モデルを生成し、解析を行う。この際、血管内の細胞培養液の流れと血管外の間質流の速度や、ゲル内の酸素濃度について、それらの部分的・局所的なデータを計測し、計算モデルにフィードバックする方法について検討する。
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