研究課題/領域番号 |
23KF0073
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 外国 |
審査区分 |
小区分02070:日本語学関連
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
沈 国威 関西大学, 外国語学部, 教授 (50258125)
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研究分担者 |
YUAN JIANHUA 関西大学, 外国語学部, 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
1,400千円 (直接経費: 1,400千円)
2024年度: 700千円 (直接経費: 700千円)
2023年度: 700千円 (直接経費: 700千円)
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キーワード | 近代メディア / 伝染病 / 言語記述 / 社会受容 / 語彙的研究 / サ変動詞 / 公衆衛生 / 翻訳 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、日中の新聞・雑誌といった近代のメディアにおける伝染病に関する言語記述とその社会的受容の状況を調査することにより、両国はどのように伝染病を捉え、言表し、社会世論の形成に取り組んでいるかを明らかにするものである。日本と中国のメディアから均等に言語素材を選出し、具体的な語彙を抽出する。語源、使用文脈、文体、言語使用者の感じ方などについて日本語と中国語の角度から考察し、日中両言語の伝染病をめぐる言語現象の背後にある価値観、疾病観を描き出すとともに、疾病という極めて個人的なものが如何にして社会(或いは国)全体の事件になったかを語彙の面から探究したい。
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研究実績の概要 |
令和5年度には、袁建華氏は学術論文3編を発表しており、課題と関連のある国内外の学会に4回参加した(コメンテーター2回、研究発表2回)。すでに発表した論文のうち「日本語における無活用動詞の形態・統語的特徴をめぐって」(2023,『或問』43:91-106)は漢語動詞の「無活用」といった特性に注目し、その形態・統語的特徴を明らかにしたものである。漢字語は日本語に取り入れられた後、日本語化しつつも孤立語としての特徴がある程度残っている。これは、伝染病関連の語彙的記述において中日対照を行う基盤にもなっているところである。コメンテーターとして参加した東アジア文化交渉会第15回国際学術大会は、「公衆衛生、伝染病、医薬と文化交渉」という分科会を通して、当該分野の最新研究動向を把握できただけでなく、討論を通じて専門家から得た有益な助言は、先行研究の整理と資料収集を方向付けることができた。国立国語研究所において開催された研究会、そして関西大学で開催された第4回東西近代知識移転と言語接触国際シンポジウムにおいて、袁氏は、発表を通じて、語彙の記述的方法を自分なりにまとめあげた。また、香港中文大学で開催された第四届中国翻訳史国際研討会:翻訳與権力に参加し、示唆に富む発表を聞いただけではなく、発表者と議論したことにより、史的研究の特徴と史的記述の方法を自分なりに整理・吸収することができた。一方、袁氏は、パイロット調査の結果を小範囲で発表・議論したことにより、調査の仕方及び論の進め方もある程度明らかにできた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度では、袁建華氏は医学史における伝染病中心の先行研究と語彙史や語彙記述法関連の先行研究を収集・整理し、研究テーマのイメージがより鮮明になってきている。東西学術研究所の研究員、院生たちと議論することにより、具体的な研究方向と進め方を確定することができた。特に調査資料を最も社会的生活を反映する雑誌と新聞に限定したことは、研究の成果を引き出す上で意義が多い。袁氏は10語(名詞4、動詞3、形容詞3)のパイロット調査の範囲を「日本語歴史コーパス」における『明六雑誌』『東洋学芸雑誌』『国民之友』『太陽』『女学雑誌』『女学世界』『婦人倶楽部』といった雑誌と『読売新聞』という新聞に決定し、調査に着手し、かなりの量のデータを収集した。 東アジア文化交渉会第15回国際学術大会「公衆衛生、伝染病、医薬と文化交渉」という分科会と第四回中国翻訳史国際シンポジウム「翻訳と権力」を聴講することにより、当該分野の最も新しい研究動向を把握できただけでなく、コメンテーターとして当該分野の専門家と有益な議論も行った。伝染病を中心とした文化交渉及び史的記述の方法をある程度身につけることができた。また、国立国語研究室の研究会と第4回東西近代知識移転と言語接触国際シンポジウムにおける発表は、語彙の記述的方法を専門家から多く教わった。氏が発表した学術論文「日本語における無活用動詞の形態・統語的特徴をめぐって」(2023,『或問』43:91-106)は漢語動詞の特性を記述しているもので、今後、上記の文化交渉、史的記述、語彙的研究の方法を「近代メディアにおける伝染病の言語記述と社会受容に関する語彙的研究」に応用していくものとなるであろう。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的は、日中の新聞・雑誌といった近代のメディアにおける伝染病に関する言語記述とその社会的受容の状況を調査することにより、両国はどのように伝染病を捉え、言表し、社会世論の形成に取り組んでいるかを明らかにすることである。近代西洋医学の知識は日本より、或いは日本経由で中国に伝播したものが殆どであり、語彙と言語表現の面においても日本語の影響を強く受けている。例えば、次のような中日同形語が頻出している。名詞には、病院(医院)・保健所・診療所・患者・病床などが挙げられる。動詞には、消毒・隔離・注射・免疫・発熱・拡散・閉鎖等の語がある。形容詞には、密接・濃厚・深刻・緊急等がある。上記のような語彙についても中日語彙交流史と疾病史の視点から考察することは非常に有意義なことである。2023年度は、既発表論文と学会発表などの成果を見て分かるように、漢語の和語と違う語彙的特性と語彙的記述の方法に重点を置いた。無論、先行研究の整理、考察範囲と対象の確定、データの収集にも多くの時間を割いていた。2024年度は、前年度に収集された資料(近代の代表的な医学雑誌や新聞の関連コラムなど)を年代別にある程度デジタル化し、代表的な伝染病(梅毒・エイズ・コレラ・痘瘡・結核・ペスト・インフルエンザ・蚊媒介感染症・薬剤耐性菌感染症)を中心とする小型近代伝染病データベースの構築に挑戦する。また、「日本語歴史コーパス(明治・大正編)」(国立国語研究所)などの既存のコーパスを活用し、選出した対象語彙について、パイロット考察で確立した方法をもって研究を進めていく。最終的に関連語彙100語程度の考察を完成し、そこで得た知見をもとに中日両言語の伝染病をめぐる言語現象の背後にある価値観、疾病観を描き出すとともに、疾病という極めて個人的なものが如何にして社会(或いは国)全体の事件になったかを語彙の面から探究していきたい。
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