研究課題
特別研究員奨励費
2021年に北海道南東部沿岸で発生したKarenia属による大規模赤潮により、我国の赤潮による過去最大の漁業被害が生じた。今後も本属による大規模赤潮の発生が懸念されるため、本研究では、Karenia属の発生起源海水の特定を、①環境DNAによる検出、②MIG-seq(RNA-seq)などの集団遺伝学解析、③海水流動モデルを用いた逆粒子追跡法を用いて達成することを目的とする。もし、仮に起源海水の特定が可能であった場合、その水魂の流動を追えばKarenia属の出現動態の予測がある程度可能になるため、被害軽減につながる予測技術の開発につながることが期待される。
2023年度に実施した項目は北光丸調査船の調査,カレニア科培養株の確立,そして紋別オホーツクタワーで収集したカレニア科のメタバーコーディングデータの分析に分けられる。2023年10月に参加した北光丸調査船での調査では,Aライン3地点と道東沖沿岸漁場環境調査観測点9地点において水深0m, 10mで採水した。さらにカレニア科渦鞭毛藻の日周鉛直移動を調査するために3地点で朝夜の4水深(0m, 10m, 20m, 30m)を採水した。培養株の確立においては,能取湖,噴火湾,厚岸からのサンプルを観察したが,カレニア科渦鞭毛藻は検出されなかった。北光丸と舞鶴湾のサンプルからは5つのカレニア科渦鞭毛藻の培養株を確立した。紋別のデータ分析では,分子系統解析によるOTUsの種を同定し,カレニアセリフォミスの低出現とカレニアミキモトイの晩夏から初秋までの出現を確認した。他に,下痢性貝毒原因渦鞭毛藻Dinophysis4種(北海道沿岸に分布するD. norvegicaを含む)の培養株を確立した。2023年5月に京都舞鶴湾に発生したDinophysis赤潮サンプルから3種の培養株を用いて増殖特性と毒性を比較するため増殖培養実験を行なった。D. caudataが一番早く成長し,D. fortiiが一番遅かった。
2: おおむね順調に進展している
①2023年10月に参加した北光丸調査船での調査では,Aライン3地点と道東沖沿岸漁場環境調査観測点9地点において水深0m, 10mで採水した。さらにカレニア科渦鞭毛藻の日周鉛直移動を調査するために3地点で朝夜の4水深(0m, 10m, 20m, 30m)を採水し、約100サンプルの環境DNAを得た。②北光丸と舞鶴湾のサンプルからは5つのカレニア科渦鞭毛藻の培養株を確立した。③2023年5月に舞鶴湾で発生した下痢性貝毒原因生物を単離培養し、その増殖培養実験を行い、これに成功した。現在、下痢性貝毒成分を分析中であり、舞鶴湾に発生した集団の起源等を解明するために重要な情報を得た。
Karenia mikimotoiについては、受入れ研究者の長井が過去に西日本の複数の地点から多数の株を確立し、集藻済みであり、これに北海道噴火湾から単離した培養株を加えて、MIG-seqによる集団遺伝学解析を実施する。また、昨年度、単離したDinophysis norvegicaもその起源を特定することで、Karenia selliformisの起源海水に関するヒントが得られる可能性があるので、同様に集団解析を行う。過去10年間について、北海道周辺海域を対象に海水流動モデルを用いて粒子追跡実験を行い、紋別市において得られたメタバーコーディング解析による時系列解析結果のうち、Karenia selliformisとK. mikimotoiの出現と対馬暖流、親潮、東樺太海流の強さとの関係を評価する。
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