研究課題/領域番号 |
23KF0121
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 外国 |
審査区分 |
小区分15020:素粒子、原子核、宇宙線および宇宙物理に関連する実験
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研究機関 | 国立天文台 |
研究代表者 |
都丸 隆行 国立天文台, 重力波プロジェクト, 教授 (80391712)
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研究分担者 |
BAJPAI RISHABH 国立天文台, 重力波プロジェクト, 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2023-07-26 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,000千円 (直接経費: 2,000千円)
2024年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
2023年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
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キーワード | 重力波 / 熱雑音 / Q値 / サファイア |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、国際的に大きな課題となっている鏡の誘電体多層膜起因の熱雑音を極低温で評価し、KAGRAおよび将来の重力波望遠鏡Einstein Telescopeへのインパクトを見積もる。NAOJの低振動クライオスタットを用い、富山大からサンプルホルダーと一部サンプルを借り受けることで予算を抑えつつ実験を実現する。また、もう1つの課題として最近KAGRAで問題となっているサファイアサスペンションファイバーの熱雑音についても評価を行う。こちらはKEKのクライオスタットを活用し、誘電体多層膜のQ値測定と並行して実施できるようにする。両計測結果を総合し、極低温鏡の複合系としての熱雑音を評価する。
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研究実績の概要 |
2023年度は機械的Q値測定のためのクライオスタットの整備とアクチュエータ・センサーのセットアップを行った。本研究では特に鏡の誘電体多層膜およびサファイアサスペンションファイバーの機械的Q値を極低温で実測することを目指している。 今年度主に進捗したのはファイバーの機械的Q値計測である。KAGRAにおいてサファイア鏡懸架系全体でのQ値測定が行われた結果、当初設計よりも1桁以上低い値が得られ、サファイア鏡複合体のどこかにQ値の低い部分が存在すると推測されている。この最有力候補がサファイアファイバーの両端面にネイルヘッドと呼ばれるサファイアブロックを接合している部分である。接合部にはスミセラムというセラミック系接着剤が用いられており、スミセラム自身のQ値測定結果では今回の結果を説明できないため、実際のファイバーとネイルヘッドの接合において低Q値となった可能性が考えられる。したがって、KAGRAの実機と同じサファイアファイバー単体でのQ値測定のセットアップをKEKのクライオスタットを用いて構築した。すでにファイバーのホルダー、エキサイター、センサー等のセットアップが完了し、室温でQ値2000が得られた。今後低温にしてQ値を計測を実施する予定である。 鏡の誘電体多層膜のQ値測定では、国立天文台三鷹のクライオスタットを用いるが、このクライオスタットはしばらく使われていなかったため整備にやや時間を要している。ディスク上のサンプルを保持するホルダーは富山大から借り受け、クライオスタットに組み込んでセンサー・アクチュエータ系の準備を行っている段階にある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
誘電体多層膜のQ値測定セットアップの準備はやや遅れているものの、サファイアファイバーのQ値測定セットアップは完成し、室温での予備測定もできていることから、全体の進捗状況はおおむね順調といえる。 サファイアファイバーの長さは300mmあり、また、ファイバーを一段の振り子で防振しないと振動エネルギーの流出が生じてファイバーのQ値を正確に測れないため、クライオスタット内部には500mm程度の高さが必要である。このため、KEKの既存クライオスタットに改造を加えた。また、振り子とサンプルホルダーも新規に制作した。特にファイバーのクランプ部分には工夫が必要で、最適な形状を設計・制作した。測定では、振動の減衰時間を計測する方法を採用した。エキサイターには静電型を用い、ファイバーの各モードを励起したのちに減衰振動をレーザーシャドーセンサーで計測した。KAGRAで用いているのと同じネイルヘッド付サファイアファイバーを室温で計測し、Q値2000の予備測定結果を得ている。このQ値は室温としてもかなり低いものであるため、高いQ値が出ることが確認できているモノリシックサファイアファイバーを用いた測定系のチェックが必要と考えている。基礎チェックが終了後、サファイアファイバーを20K以下の極低温に冷却してQ値を測定する予定である。また、得られたQ値を用いてファイバーの熱雑音レベルを計算し、KAGRAの熱雑音レベル推定および今後の改良を目指す予定である。 誘電体多層膜のQ値測定は、国立天文台三鷹のクライオスタットを整備して実施予定である。現状はクライオスタットの整備がようやく完了するところである。計測するサンプルはディスク状であるため、富山大よりディスク型サンプル用のホルダーを借り受け測定の準備を行っている。測定方法は同じである。
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今後の研究の推進方策 |
KAGRAの喫緊の課題はサファイア鏡懸架系で実測した鏡複合体のQ値が設計より1桁以上低い原因究明と改善であり、本研究でもこの問題に焦点をあてて推進していきたいと考えている。鏡複合系のQ値が低い理由の1つは、サファイアファイバーとネイルヘッドの接合部(アルミナ接着剤スミセラムによる接着)にあると推定されるため、KAGRAのネイルヘッド付サファイアファイバー単体でのQ値測定に重点を置く予定である。上述の通り、室温で計測した値はこれまでの経験からしてもかなり低いため、まず測定系の正しさを検証することが必要と考えている。過去の実測から、室温でも105、低温では107のQ値が確認されているモノリシックなサファイアファイバーを用いて検証を行う予定である。次のステップとして、KAGRAのネイルヘッド付きサファイアファイバーの20K以下でのQ値測定、問題があった場合には過去に制作した別の接合方法(プラズマ接合等)との比較、新しい接合方法のテスト等を通して、KAGRAのサファイアファイバーのQ値を改善していく予定である。 国立天文台三鷹に構築中の誘電体多層膜のQ値測定は、2024年度前半にも計測をスタートできる見込みである。誘電体多層膜の熱雑音はKAGRAでは喫緊の課題ではないが、LIGOやVirgoでは重要な課題となっており、特に低温でのQ地は次世代重力波望遠鏡計画Einstein Telescopeで非常に注目されている。したがって、国立天文台の重要なR&Dとして着実に推進していく予定である。また、三鷹のセットアップではファイバーでも用いられている結晶接合剤自身のQ値も評価しやすいため、今後は誘電体多層膜のみならず、様々な接合剤の評価も行う予定である。
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