研究課題/領域番号 |
23KF0204
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 外国 |
審査区分 |
小区分30020:光工学および光量子科学関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
志村 努 東京大学, 生産技術研究所, 教授 (90196543)
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研究分担者 |
HAO JIANYING 東京大学, 生産技術研究所, 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2023-11-15 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
2024年度: 400千円 (直接経費: 400千円)
2023年度: 600千円 (直接経費: 600千円)
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キーワード | ホログラフィックメモリー / 畳み込みニューラルネットワーク / 複素振幅変調 / ページデータ / ピンボケ像 |
研究開始時の研究の概要 |
大容量記録が可能なホログラフィックメモリーのさらなる記録密度向上のために、振幅と位相の両方を変調する複素振幅変調方式を採用し、その情報の検出の方法として、深層学習アルゴリズムを用い、干渉計を用いず像の強度情報のみからら複素振幅情報を回復する手法を提案し、その有効性を検証する。深層学習を用いることで、ひとたび系の学習が終了すれば、反復計算無しで高速に複素振幅情報が取得できる。本方式を用いた場合の記録密度限界についても見積もる。
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研究実績の概要 |
ホログラフィックメモリーは、3次元体積記録であるため、従来の光メモリーに比べて、記録密度の著しい増大が期待できる。一般的なホログラフィックメモリーではデータの表現に強度の2値変調を用いているが、さらなる記録密度向上のためには、振幅と位相の両方を変調する複素振幅変調方式が有効である。しかしながら再生像は直接的には強度情報のみしか持っていないため、位相情報の検出には、干渉計を用いるか、反復アルゴリズムによる位相回復が必要であった。前者は光学系が複雑かつ不安定、後者は繰り返し計算のため時間がかかる、という欠点を持っている。そこでわれわれは、深層学習アルゴリズムを用いて、像の強度情報のみから複素振幅情報を回復する手法を提案し、その有効性を検証する。深層学習を用いることで、ひとたび系の学習が終了すれば、反復計算無しで高速に複素振幅情報が取得できる。 本年度は、N×N画素の2次元複素振幅パターンを用い、結像位置からわずかに光軸方向に移動した場所で、わずかなピンボケを起こした画像を取り込み、これを畳み込みニューラルネットワークに学習させることにより、干渉計を用いない方法で像の強度と位相の両方を検出する方法を考案し、数値シミュレーションにより実証した。 この場合、わずかなピンボケ像は、そのぼけた像の強度分布が、元画像の複素振幅情報を含んでいる。例えば、振幅分布が全く同じページデータであっても、各画素の位相が異なれば、ちょうどピントの合った位置では全く同じ強度分布になるが、ピンボケ位置では、ボケ像の強度が位相分布によって異なり、このボケ方の違いを機械学習により分別することにより元の複素振幅分布の情報を回復することができる。このことを数値シミュレーションにより実証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初は2023年度に光学実験を行う予定としていたが、Haoの来日時期と、研究環境整備に要する時間を鑑みて、初年度は数値シミュレーションに特化して研究を行うこととした。このため、光学実験に必要な機器の購入は2024年度回しとした。 一方、数値シミュレーションに関しては順調に進んだ。ここでは、ホログラフィックメモリー光学系による像形成の部分を数値的に計算し、前記のピンボケ像の強度分布を求めた。この得られた像を機械学習にかけ、元の複素振幅分布情報が求められることを検証した。 情報画像には、強度4値、位相4値の複素振幅情報を各画素に与えた信号を用いた。ボケ像を作る方法として2通りを試みた。ひとつは記録画像の高い空間周波数成分を、光学的フーリエ変換面に置いた開口により制限する方法、もう一つは、正しい結像位置から光軸方向に検出用カメラの位置をずらす方法である。いずれの場合も、得られた空間強度分布は位相の空間分布に依存して変化し、この変化の規則を機械学習させることにより複素振幅情報の回復を行った。5000程度の教師画像を用いた学習を、50回(epoch)程度くり返すことにより、エラーレートを1/100以下にすることが可能であることを示した。このエラーレートであれば、ソフトウェア的なエラー訂正によりエラーフリーの状態を実現できる。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度は、これまで数値計算により行っていた、ホログラフィックメモリー光学系における像形成を、実際の光学系を用いて行い、より実際のシステムに近い状態での検証を行う。実際の光学系では、系の収差、ノイズ光などにより、結像画像が乱れる。無収差光学系による理想像と実際の像のずれをノイズという言葉で表現すると、系統ノイズであれば機械学習によりその影響を減少できると期待できる。問題はランダムなノイズで、これがシステムの総合的性能にどのように影響するかも検討する。ノイズは実験的に与える場合もあるが、より一般的には数値シミュレーションにより評価することが有効であると考えられる。 また、本方式はピンボケ像の空間的強度分布の構造から情報を取り出しているため、元画像の画素数をN×Nとすると、検出カメラの画素数はその1画素あたり2×2、3×3、あるいはそれ以上の画素数でオーバーサンプリングし、ボケ像の空間構造を検出する必要がある。しかしながらカメラの画素数が増えると、処理する情報量が増えるため、情報読み出し速度が低下するという問題が生じる。そこで、このオーバーサンプリングのレートをどこまで下げられるか、エラーレートとの関係で検討する。また、この際、再生像の情報画素とカメラの画素の位置を正確に合わせる必要があるか否か(ピクセルマッチングの要不要)も検討課題となる。 さらには現状は振幅4階調、位相4階調の情報を扱っているが、これをさらに多値化を進め、どこまで1画素が表現できるビット数を上げられるかについても検討する。 以上を総合的に検討して、最終的にはホログラフィックメモリーの記録容量の限界、読み出し速度の限界を探る。この2つのスペックが、ホログラフィックメモリーを実用化する上で、最も重要なシステム性能となる。
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