研究課題/領域番号 |
23KF0278
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 外国 |
審査区分 |
小区分06020:国際関係論関連
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
浅野 豊美 早稲田大学, 政治経済学術院, 教授 (60308244)
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研究分担者 |
CHAN YA-HSUN 早稲田大学, 政治経済学術院, 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2023-11-15 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
中途終了 (2023年度)
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配分額 *注記 |
1,700千円 (直接経費: 1,700千円)
2025年度: 400千円 (直接経費: 400千円)
2024年度: 600千円 (直接経費: 600千円)
2023年度: 700千円 (直接経費: 700千円)
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キーワード | アナーキズム / 植民地 / 社会の発見 / 大杉栄 / 范本梁 / 埴谷雄高 / 大正デモクラシー / 台湾 |
研究開始時の研究の概要 |
1920年代の東アジアの越境的な社会運動の展開は、日本国内にとどまらず、帝国的国際的規模で展開されていたことが実証的に論じられる。その展開過程の中で、植民地発の思想が、日本本土に逆輸入にされた事実にも注目され、それによって「社会」という存在が、国家とは異なるものとして、いかに認識され始め、社会変革の可能性が生み出されたのかが論じられる。社会問題、社会改造、社会革命といった概念の誕生によって、実際の「社会」が認識され、当時日本帝国の植民地となっていた台湾「社会」が、日台間の帝国的国家や制度の変革が、民衆の心理や感情と共に、運動の対象として認識され台湾社会の起源となったことが明らかにされよう。
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研究実績の概要 |
大正期の日本本土の社会的なものをめぐる議論と帝国の拡張に関する言説との結びつきという思想の系譜の延長に注目し、日台のアナーキズム運動の思想的継承と展開を検討した。 まず、植民地台湾から日本本土に逆輸入した思想の動向を中心に、大正期のアナーキストの大杉栄と范本梁が共有していた社会革命と植民地改造の理想が、いかに在台湾日本人の植民地移住の軌跡に媒介され、昭和期日本の社会思想に広がっていたかという問題を論じた。これは2024年3月にシアトルで開催された米国アジア学会(Association for Asian Studies, AAS)における英語での発表となった。司会は浅野が務め、発表はセンが他の発表者とともに行ったが、討論者のコメントを元に議論した。特に、環太平洋のアジア系移民の移動について、入植者植民地主義(Settler Colonialism)という枠組みが提示されていることから、埴谷雄高の哲学は入植者としての特徴が見られることに注目した。日台のアナーキズム思想は、1920年代に軍と政権の弾圧によって、大杉と范の死に伴って断絶したと思われてきたが、台湾生まれで1923年に日本本土に戻ってきた埴谷の幼少期の台湾経験の回想と植民地主義の反省は、革命の社会的意義の再検討という点で、個人レベルにとどまらないものであること、埴谷哲学が大正期のアナーキズムへ共鳴したところに植民地台湾発の「社会」概念の萌芽があることが主張された。大正期日本本土における社会の発見との共鳴という視点から、大杉―范―埴谷の思想的継承関係が明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
東アジアにおける植民地台湾から逆輸入したアナーキズムの思想的展開の研究成果をあげることは、本来8ヵ月から1年間程度かかると予想していた。ところが、研究開始からわずかの期間に、台湾生まれの埴谷雄高の哲学が大杉栄および范本梁の言説と深くつながっていることを発見し、この発見の学術的意義と現代的意義を英語の論文にまとめ重要な国際学会において英語で発表した。予想以上の成果をあげたと言えるだろう。
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今後の研究の推進方策 |
大正期の日本本土の社会的なものについての議論の活性化と、帝国的拡張をめぐる議論がいかに関係していたのかという問題、および植民地台湾発の思想が日本本土に逆輸入された回路を中心に、引き続いて研究を進める。特に、台湾議会請願運動に属する林呈禄の言説と、台湾文化協会の左派で東アジアのエスペラント運動に関わっていた連温卿の言説を取り上げる。立憲主義―台湾議会請願運動の系譜とマルクス主義の興味関心を共有していたエスペラント運動の人間関係に沿って、研究対象となる林の言説については吉野作造の立憲思想の延長から、連の言説については山川均のマルクス主義の延長から検討するとともに、植民地からの逆輸入の文脈を重視したい。 具体的な推進方策に関して、今後の研究は、在日台湾人のキリスト教会と留学生寮での活動、在台日本人(山口小静)のエスペラント運動の参加と本土―植民地間の移動、沖縄のエスペランティストの比嘉春潮の言論活動を手始めに、林の民本主義的植民地台湾改造論と、連の植民地台湾の経済論を分析する。 特に分析の焦点を当てたい資料は、吉野作造日記、台湾の中央研究院で限定公開中の連温卿の『蠹魚的旅行日記』、比嘉春潮の『蠹魚庵漫章』である。 上述した内容に関する研究の成果は、段階的に、2024年8月21日に中央大学と台湾大学が共催する東アジア日本思想史学会のサマー研究集会と、2024年11月9日、10日に東北大学で開催される社会思想史学会の第49回大会、そして2025年5月にスタンフォード大学で開催される北米台湾研究学会(North American Taiwan Studies Association, NATSA)の大会か2025年夏のヨーロッパ日本研究協会(European Association for Japanese Studies, EAJS)で発表される。
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