研究課題/領域番号 |
23KJ0022
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分33020:有機合成化学関連
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
平家 嘉人 北海道大学, 総合化学院, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,000千円 (直接経費: 2,000千円)
2024年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
2023年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
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キーワード | C-H官能基化 / ラジカル / ホスフィン配位子 / ホスフィン触媒 / ピリジン |
研究開始時の研究の概要 |
高活性ラジカル種は、単純なアルカン基質の不活性C-H を変換できる、非常に高い反応性を有する。そのため、近年発達してきた遷移金属触媒を用いる手法とは対象的に、元素戦略の観点において有用性が高い。しかしながら、この手法の大きな問題は、発生した高活性ラジカルの制御が難しく、精密合成への適応が困難な点にある。これは、塩素ラジカルのような中性、かつ官能基を有しないラジカル種を制御する方法論が確立していないことに由来している。本研究では、触媒によるラジカルの安定化機構を開拓することで高活性ラジカル種を精密制御する新規手法を提案し、有機分子を自在に化学修飾するための基盤を確立することを目指す。
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研究実績の概要 |
1級炭素C-Hと3級炭素C-H結合を有する2,3-ジメチルブタンのC(sp3)-Hアミノ化反応をモデル反応とした際に、1~3%収率と低収率の範囲内であるが、ラジカルに対する配位子として添加した3価リン化合物の立体構造によって、塩素ラジカルの反応性が大きく変化することを見出した。これは、リン原子の非共有電子対によるラジカルの安定化により、リン化合物の立体環境が塩素ラジカルの反応性に影響したものと考えられる。 また、上記反応の研究を進める中で、ホスフィン化合物自身が触媒となり、室温条件で2-アルキルピリジン類α位の不活性C(sp3)-H アミノ化反応が進行することを見出した。2-アルキルピリジンのα位C(sp3)-H官能基化反応は、一般的にBuLi試薬などの強塩基を必要とするが、近年ではパラジウムやルイス酸触媒によるピリジン部位の活性化を用いることによって、強塩基を用いない反応が開発されている。しかし、Guo等によって報告されているC(sp3)-Hアミノ化反応では、パラジウムを触媒として用い、110 ℃という高温の反応条件が必要である(Chem. Commun. 2012, 48, 9723)。本研究課題で見出した反応は室温で反応が進行する点で、反応としての新規性がある。また、文献調査の限りでは、本反応は、ホスフィン触媒による不活性C(sp3)-Hの官能基化反応として、初めての例であり、リン化合物の触媒としての新規活用法を提案するものである。反応条件のさらなる最適化と、様々な基質適応範囲の拡大をおこない、結果として、選択的 COX-2 阻害剤であるEtoricoxibのアミノ化が、酸性度の高いスルホニル基α位のプロトンが存在していても、ピリジンα位C(sp3)-H選択的に進行することが見出された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
塩素ラジカルのホスフィン配位子による制御の効果が確認されている。現状の問題点は、収率が極めて低い(1~3%)ことである。収率が低いジクロロメタン溶媒中ではホスフィン配位子の効果が見られるものの、収率の向上する他の溶媒では効果が確認されない。これらは、塩素ラジカル自体の寿命が極めて短いことに由来しており、塩素ラジカルを安定化する溶媒を使用すれば、塩素ラジカルの寿命が延びるために収率が向上するが、配位子の効果は出にくくなる。実際にNocera等が塩素ラジカルをコントロールしたと報告している反応では、収率が1%を下回るため、悲観する結果ではなく、収率と制御の両立は、極めて挑戦的な課題と言える。(JACS. 2022, 144, 1464)。 本研究課題に取り組む中で、ホスフィン触媒による、2-アルキルピリジンのα位C(sp3)-Hアミノ化反応を見出した。本反応は、室温で反応が進行する点で、反応自体の新規性がある。加えて、文献調査の限りでは、ホスフィン触媒による不活性C(sp3)-Hの官能基化反応として、初めての例であり、近年盛んに研究が行われている、リン化合物の触媒としての新規活用法を提案するものである。 以上のように、本研究課題では塩素ラジカルの新規制御法の足がかりとなる結果が得られており、研究の展開は堅調である。また、ホスフィン触媒による2-アルキルピリジン類の温和なC(sp3)-Hアミノ化反応を見言い出した。本反応は従来法よりも温和な反応条件であることに加え、リン化合物の触媒的な活用法において新規性を兼ね備えている。 よって、研究は「おおむね順調に進展している」といえる。
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今後の研究の推進方策 |
上記に述べたように、塩素ラジカルが短寿命であるがゆえに、配位子の効き具合と収率の向上を両立させる点に課題がある。2つの戦略をもって、本課題に取り組む。 一つは、溶媒による安定化と、配位子によるラジカルの安定化のバランスを調整し、収率と選択性の両立を目指す方法である。各種ホスフィン配位子、ピリジン配位子と溶媒の組み合わせのデータを集め、機械学習を行うことで、最適な反応条件の導出を行う。 もう一つは、ハロゲンラジカル発生と同時に、外部添加剤によってハロゲンラジカルを安定化する方法である。すでに、3価有機リン化合物の非共有電子対と、炭素-ハロゲン結合の反結合性軌道の相互作用によって電荷移動錯体が発生し、ハロゲン原子移動(XAT)が起こることが知られている(JACS. 2023, 145, 8275)。この際、リン-ハロゲンラジカル間に直接的な相互作用が想定されているため、キラルリン化合物を触媒に用いることで不斉反応を行えると考えた。本年度は、アルケンに対するハロゲンの不斉付加反応を検討し、有機リン触媒によるハロゲンラジカルの制御法に関する知見を得る。 2-アルキルピリジン類α位の不活性C(sp3)-H アミノ化反応はさらなる基質適応範囲の拡大を行う。また、反応機構の精細な調査を行い、現在盛んに行われているホスフィン触媒の研究領域に対し、新しい知見を提示する。実験的な取り組みだけではなく、DFT計算や、機械学習にも取り組み、ホスフィン触媒の構造と収率の因果関係の解明を目指す。また、現在はラセミ体が得られているが、不斉ホスフィン触媒を網羅的に検討することで、不斉反応への展開も試みる。
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