研究課題/領域番号 |
23KJ0027
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分21050:電気電子材料工学関連
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
江藤 亘平 北海道大学, 情報科学院, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
1,600千円 (直接経費: 1,600千円)
2024年度: 700千円 (直接経費: 700千円)
2023年度: 900千円 (直接経費: 900千円)
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キーワード | 半導体量子構造 / スピントロニクス / スピン発光ダイオード |
研究開始時の研究の概要 |
省エネルギー未来社会の実現において、消費電力なしに情報を保持できる電子スピンと熱損失なしに情報を高速伝送できる光伝送が重要性を増している。スピン情報の光変換は、スピン発光ダイオードの電流注入発光により可能である。しかし、スピン発光ダイオードの電子スピン輸送層において、高輝度発光が可能な高バイアス条件では室温で90%もの電子スピン偏極が失われ、高い円偏光度を有するスピン発光ダイオードは実現できていない。そこで本研究では、室温で電子スピン偏極を増幅できる希薄窒化物半導体を組み込んだ量子ドット超格子と量子井戸超格子のスピン輸送特性を比較し、室温で高い円偏光度を実現するスピン発光ダイオードを創成する。
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研究実績の概要 |
計算機の消費電力を低減する光と電子スピンから成る次世代の計算機を実現するために、本研究では、超格子輸送構造に希薄窒化物半導体を用いたスピン増幅輸送層の研究を行っている。今年度は、本研究実現のキーとなる半導体超格子と希薄窒化物半導体を、それぞれ単体だけ搭載した光スピン変換素子を作製・評価した。 試料作製は、まずpドープGaAs(001)基板上にp-i-n構造をエピタキシャル成長させたあと、磁性電極ならびにボンディング用金電極を電子線蒸着法とボート加熱法により実施した。電流注入のための表面電極パターニングは、OFPR800LBとLOR-5Aを用いた標準的なリフトオフプロセスにより行った。 評価は、磁性電極を磁化できる強磁場中で、円偏光レーザの入射による光電流の観測もしくは磁性電極を通過することで得られるスピン偏極電流の電流注入発光の観測により行った。
実験の結果、超格子構造においては、電子スピン偏極を反映した光電流と円偏光発光を15Kで観測し、超格子構造がスピン受光ダイオード並びにスピン発光ダイオードの輸送層として機能する事を確認した。なお電子スピン偏極を反映した信号が観測できるFaraday配置にて評価した。 希薄窒化物においては、高い円偏光発光と強い発光強度を併せ持つ半導体量子ドットとエネルギー的にカップリングする数nmのトンネル障壁を介して、スピン発光ダイオードの発光層へと搭載した。その結果、電流増加による半導体量子ドットのフィリング効果とGaNAsのスピン増幅効果がバランスし、室温で、強い発光と高い円偏光の両立に成功した。以上の成果は国際学術誌PhysicalReviewAppliedに掲載されたほか、日刊工業新聞にも掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度までの研究により、希薄窒化超格子研究の指針となりうる成果があげられている。
先述したように、半導体超格子を搭載した光スピン変換素子からは、スピンに依存した光電流と円偏光発光が観測されており、具体的には+15%のPSAと-5%のCPDを観測している。ここでPSAはスピン依存光電流とスピン無依存光電流の比であり、CPDは右回り円偏光発光と左回り円偏光の比である。測定温度は15Kである。PSAとCPDで極性が異なっているのは、発光時に生じていると考えられる多数個スピンの反転散乱が、受光時には原理的に生じないためである。現状非零なPSAとCPDは極低温のみで観測されており、実用上重要な室温では光電流においてはスピン依存成分が、電流注入発光においてはCPDが観測されていない。これは、超格子界面の欠陥準位による電流損失や、電界印可時の超格子のバンドポテンシャルが湾曲していることによるものと考えられる。今後は結晶成長技術の醸成や各種パラメータを細かく変化させたバンド計算によって、最適な超格子輸送構造を見出す。
希薄窒化物においては、半導体量子ドットと希薄窒化物半導体を、エネルギー的にカップリングする数nmのトンネル障壁を介して、スピン発光ダイオードの発光層へと搭載した。その結果、室温で7%のCPDを有する円偏光発光を観測した。さらに、通常電界誘起のスピン緩和により変換性能が低下する高輝度領域でも高いCPDを維持した。これは、上記のスピン緩和に対しGaNAsのスピン増幅効果が作用したためである。以上の成果は国際学術誌PhysicalReviewAppliedに掲載されたほか、日刊工業新聞にも掲載された。今後は上述の超格子と複合させた光スピン素子を作製するだけでなく、本素子とスピン受光ダイオードを対向させた光スピン受送信システムの開発も行う。
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今後の研究の推進方策 |
今年度では、本研究計画のキーストラクチャーである超格子輸送層と希薄窒化物の、スピン保存輸送機能とスピン増幅機能の実証を行い、その有用性を確認した。 次年度は以上の成果を複合させ、希薄窒化物と量子ドットを複合活用する超格子スピン増幅輸送構造を光スピン変換素子に搭載する。既に、希薄窒化物と超格子を用いたデバイスについては作製・評価を開始しており、高品質な超格子のみに形成されるミニバンドからの発光も確認している。今後は詳細な光学測定を行い、半導体素子構造の高度化を行うとともに、希薄窒化物がもたらすスピン増幅効果について測定を行う予定である。 さらに、スピン発光ダイオードの発光をスピン受光ダイオードで受光する光スピン受送信システムについても高機能化を行う。具体的には、BK7ガラスのボールレンズを用いた電流注入発光のコリメートと、XZ微動機構の導入を行う。 以上の推進方策によって、希薄窒化超格子を用いたスピン増幅光スピン変換素子の開発・高度化を行う。
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