研究課題/領域番号 |
23KJ0084
|
研究種目 |
特別研究員奨励費
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分47040:薬理学関連
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
鹿山 将 東北大学, 薬学研究科, 特別研究員(PD)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2026-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2025年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
|
キーワード | 脳-末梢連関 / 炎症 / 脳波 / 発火 |
研究開始時の研究の概要 |
近年、脳と末梢免疫系との関連が注目されている。本研究では、情動記憶に関連することで有名な腹側海馬に着目し、腹側海馬の神経活動が、末梢臓器である腸の炎症を制御し得るか検証する。まず、腸の炎症が発生した時の腹側海馬の神経細胞1つ1つの発火活動を計測し、特徴的な神経活動を明らかにする。次に、腹側海馬の神経活動と腸の炎症との因果関係を明らかにするべく、腹側海馬の神経活動を光遺伝学的手法で操作し、腸の炎症への影響を検証する。最後に、プロテオミクス解析を用いることで、腸の炎症によって活性化する神経細胞集団のタンパク質発現パターンの特徴を明らかにする。
|
研究実績の概要 |
本研究の目的は、末梢臓器における炎症の情報が、脳内でどのように処理されるのか理解することである。さらに、脳が、こうした情報をもとに、末梢臓器における炎症を制御し得るのか検証する。本年度は、末梢臓器の炎症惹起による脳の神経活動の変化を、神経活動マーカー c-Fosタンパク質の定量により検証した。また、本研究で特に着目している脳領域「腹側海馬」において脳波計測を行い、炎症による影響を解析した。さらに、単一細胞レベルの発火活動計測の実験系を確立した。そして、深部脳領域における光遺伝学的手法を用いた神経活動操作の実験系を確立した。現在、末梢臓器の炎症による発火活動パターンの変動の計測・解析を行っている。 初めに、末梢臓器における炎症が、どの脳領域を活性化するのかを明らかにするため、全脳における c-Fos タンパク質の免疫染色を行った。炎症惹起能をもつリポ多糖をマウスの腹腔内に投与した後、冠状断脳切片を作製し、免疫組織染色法を用いて c-Fos タンパク質を検出したところ、腹側海馬を含む複数の脳領域において、c-Fos タンパク質の有意な発現増加が見られた。このことは、末梢臓器の炎症が、腹側海馬を含む複数の脳領域を活性化した可能性を示している。次に、マウスの腹側海馬に記録電極を埋め込み、リポ多糖の腹腔内投与による脳波変動を計測したところ、シャープウェーブリップルと呼ばれる脳波の発生頻度が低下する傾向が見られた。このことは、末梢臓器の炎症が、腹側海馬の電気的活動に影響を与えた可能性を示している。さらに詳細な神経活動計測を行うため、単一細胞レベルの発火活動の計測・解析技術を習得した。現在、リポ多糖の腹腔内投与による発火活動パターンの変動を計測・解析している。そして、今後必要になる神経活動操作のために、深部脳領域に光感受性分子を発現させることに挑戦し、これに成功した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
発火計測の実験系は技術的に難しいため、初年度は実験系の立ち上げまでが限界と考えていた。しかし、想定よりも早く発火計測の実験系を構築することができた。これにより、末梢臓器で炎症を発生させた時の、発火活動の計測をすでに実現できている。また、全脳における c-Fos タンパク質の免疫染色により、末梢臓器の炎症によって神経活動が大きく変化する脳領域を、腹側海馬以外で見つけることができた。この脳領域について、神経活動の計測を行い、計測した発火活動のデータを用いて、様々な時間スケール (ミリ秒、秒、分単位) の発火パターンの解析を、すでに開始している。加えて、神経活動操作の検討も進展した。神経活動操作の実験系は、末梢臓器の炎症を調節する神経細胞集団の活動を人工的に操作し、脳と末梢炎症の因果関係を明らかにするために必要である。今年度は、腹側海馬と同程度に深い領域にウイルスベクターを投与し、光感受性分子チャネルロドプシン2 を発現させる実験系の開発を試みた。ウイルスベクターの種類や、投与後の期間を検討したところ、光感受性分子チャネルロドプシン2の発現を蛍光顕微鏡で確認することができた。さらに、この脳領域に光ファイバーと記録電極を埋め込み、青色光を照射したところ、光照射に合わせた神経活動の変化を計測することができた。このことは、発現した光感受性分子チャネルロドプシン2 による神経活動操作に成功したことを示している。この実験系の確立は、次年度以降に検討予定であったが、今年度に検証し、実験系を確立することができた。以上の理由から、当初の計画以上に進展している、という評価を行った。
|
今後の研究の推進方策 |
この研究では、脳が末梢臓器の炎症状態を検出し、それを制御するという仮説を立てている。そのため、今年度に引き続き、末梢臓器の炎症により惹起される脳内の神経活動の特徴を明らかにする。さらに、その神経活動が、末梢臓器の炎症に対してどのような影響を与えるのか検証する。 まず初めに、末梢臓器の炎症を起こした時の神経活動の計測を引き続き継続し、データセットを集める。末梢臓器に炎症を発生させた時の、神経細胞1つ1つの発火活動を計測する。このデータセットを解析し、炎症発生後の特徴的な発火活動のパターンを検出する。まだ十分なデータ数が集まっていないものの、特徴的な発火活動のパターンの傾向が見えてきており、様々な時間スケール (分単位、秒単位、ミリ秒単位) で変化が起きている可能性がある。 次に、この発火活動パターンを模倣し、末梢臓器の炎症に対してどのような影響を与えるのかを検証する。こうした様々な時間スケールの発火活動のパターンを模倣するために、光遺伝学的手法を用いる。この方法では、まず光感受性分子チャネルロドプシン 2 を神経細胞に発現させる。そして、光ファイバーを埋め込み、青色光を照射する。光感受性分子チャネルロドプシン2 を発現した神経細胞は、光照射に合わせて活動するため、神経活動を時間解像度高く操作することができる。この手法を用いて、炎症発生時の特徴的な発火活動が、末梢臓器の炎症に対してどのように影響するのか (例えば、炎症に対して抑制的に作用するのか否かなど) を検証する。 最終的に、末梢臓器の炎症を制御する神経細胞集団を治療標的とした薬の開発に貢献したいと考えている。
|