研究課題/領域番号 |
23KJ0092
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分17010:宇宙惑星科学関連
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
坂田 遼弥 東北大学, 理学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2025年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | 太古火星 / 大気進化 / 電離大気散逸 / 磁気流体力学シミュレーション / 固有磁場 |
研究開始時の研究の概要 |
宇宙空間への電離大気の散逸(イオン散逸)は太古火星大気の進化に重要な役割を果たしてきたと考えられている。しかし中性大気や太陽活動、惑星の持つ固有磁場などのイオン散逸に影響を与える要素は現在と過去とでは大きく異なっており、いまだその全体像の理解には至っていない。本研究では太古火星におけるイオン散逸過程の網羅的かつ定量的な理解を目指して、電離圏から磁気圏までを含めた多流体磁気流体力学モデルによる大規模数値シミュレーションに基づいて当時の中性大気、太陽環境、および固有磁場がイオン散逸に与えた影響について検証する。また一連の検証を行うために中性大気モデルとの結合などのモデルの改良も行う。
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研究実績の概要 |
本研究課題で使用しているグローバル多流体磁気流体力学(MHD)モデルMAESTRO (Multifluid Atmospheric Escape Simulations Toward Real elucidatiOn)の概要とその妥当性の検証、および当モデルに基づいた太古火星における電離大気散逸過程の検証をまとめた論文をJournal of Geophysical Research誌に提出し、現在査読を受けている (Sakata et al., 2024, in review)。当論文では、太古火星における電離大気散逸に対して固有磁場の存在および強度が与える影響について検証した。全てのイオン種を単一の流体として取り扱う多成分MHDモデルに基づいた従来研究 (Sakata et al., 2020, 2022)と比較して、電離圏イオン流出を主とする分子イオンの散逸が増加し、特に固有磁場強度が強いケースで増加が顕著に見られた。このことは、地球や太古火星など強固有磁場を保持する惑星における電離大気散逸過程を検証するうえでは、イオン種をそれぞれ独立した流体として扱う多流体モデルによる検証が必要であることを強く示唆している。また、UCLAのYingjuan Ma氏らのグループと共同で行なっている先行MHDモデルBATS-R-USとのモデル間比較検証についても一定の成果を上げており、論文の執筆を進めている。これまでの検証では、バウショックや電離圏など太陽風相互作用における大局的な構造や惑星イオンの散逸率について両モデルが良く一致した結果を出しており、MAESTROの妥当性が改めて示された。一方で夜側電離圏の構造にはモデル間に差異が存在しており、グリッドや数値スキームなどモデルに強く依存する数値的な実装が与える影響についても検証を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題での目的の一つである強固有磁場が存在する条件下での電離大気散逸の検証に向けて、多流体モデルMAESTROの改良を実施した。強固有磁場を持つ惑星における計算で問題となるアルヴェーン速度の増大とそれに伴う時間刻み幅の減少への対策として、Gombosi et al. (2002)によって示されたボリス修正と呼ばれる手法を実装した。準相対論的MHD方程式系に基づいた方程式系の修正を行うことでアルヴェーン速度の上限を光速にするとともに、計算が破綻しない範囲で光速を人為的に小さくすることで、従来よりも大きい時間刻み幅を実現させた。ボリス修正の整合性をテスト計算で検証しつつ、電離大気散逸の検証を行う具体的な計算条件の検討を進めている。中性大気モデルなど他モデルとのモデル間結合に向けては、インターフェイスやグリッドの共有を進めるとともに、粒子種や計算設定などを柔軟に変更できるような改修を実施した。特に粒子種については、従来の4種類(水素分子、酸素原子、酸素分子、二酸化炭素分子)に加えて炭素や窒素、ナトリウムなど追加の10種類の粒子種に関する光化学および衝突過程を実装することで、本研究課題において従来想定していたよりも幅広いイオン種をターゲットにした検証が可能になった。一部の研究課題の進捗について若干の遅れが生じているが、受入先研究機関における議論やモデルの改良によって本研究課題に対して想定よりも踏み込んだ検証が行える道筋ができつつあり、全体として概ね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
強固有磁場条件(赤道表面で10000 nT以上となる双極子磁場)のもとにおける電離大気散逸のシミュレーションを実施する予定である。新たに実装したボリス修正を可能な範囲内で最大限活用し、効率的に計算を進めることを目指す。前年度に着手した他モデルとのモデル間結合の実装についても引き続き進める。また、モデルの改良によって当初の想定よりも広い条件およびターゲットを対象にすることが可能になったことを踏まえて、衛星観測との比較も含めたより詳細な電離大気散逸過程の検証を進める予定である。
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