研究実績の概要 |
消化管上皮は,消化や吸収,分泌,外界に対するバリアなどといった様々な機能を持つ重要な構造である.これらの機能が障害される疾患は多岐にわたり,特定の分子や栄養が吸収できない先天性疾患である乳糖不耐症や先天性グルコース・ガラクトース吸収不良症,消化管上皮が傷害される炎症性腸疾患(クローン病や潰瘍性大腸炎),そして広範な小腸切除によって吸収領域が著しく喪失される短腸症など枚挙に遑がない.これらの難治性腸疾患の多くは根本的な治療法に乏しく, 原因究明や治療法の開発ニーズは大きい. 本研究では, 近年開発された, 腸管上皮幹細胞および多様な分化細胞を含む三次元構造体「オルガノイド」を永続的に培養する技術を応用することで, 先に挙げた疾患に対する病態解明, 並びに新規治療法開発を目指し, オルガノイドを用いた腸疾患モデル動物の創出とヒトへの新規治療法開発のプラットフォームを構築することを目的とした. オルガノイドを用いた腸疾患モデル動物作製には,「消化管オルガノイドの培養」,「消化管上皮の剥離」,「オルガノイドの移植」の3段階がある. これまでにニッチなどの化学的条件検討や時間的, 空間的条件検討を行うことで移植に必要な消化管オルガノイドの効率的な大量培養を行うことが可能になった. また, EDTAなどの化学的剥離や物理的刺激の最適化により, レシピエントの腸上皮の効率的な剥離に成功し, さらに外科的手法の導入による移植方法の改善を得ることで, 移植面積の拡大に成功した. CRISPR-Cas9システムを利用した難治性疾患モデルオルガノイドも作製しin vitroでの解析をすすめている. これらの成果によってオルガノイドを用いた腸疾患モデル動物作製技術を構築するための, 次年度の研究計画へと繋げることができた.
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今後の研究の推進方策 |
今後は得られた疾患モデルオルガノイドの表現型を, in vitroで解析するだけでなく, 先に挙げた最適化した移植技術を用いることで, 疾患モデル動物を作製し, in vivo 解析を行えるプラットフォームを作製する.
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