研究課題/領域番号 |
23KJ0164
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分47020:薬系分析および物理化学関連
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
横澤 公平 東北大学, 薬学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,700千円 (直接経費: 2,700千円)
2025年度: 900千円 (直接経費: 900千円)
2024年度: 900千円 (直接経費: 900千円)
2023年度: 900千円 (直接経費: 900千円)
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キーワード | 液-液相分離 / グアニン四重鎖 / 光制御 / ラマン分光 |
研究開始時の研究の概要 |
タンパク質や核酸の水溶液は液-液相分離を起こし,高濃度に濃縮された直径数μmの液滴を形成する.形成された液滴は細胞内での遺伝子発現や疾患発症に関与する.液滴測定には蛍光標識やNMRが用いられるが,蛍光標識は生体高分子の性質を変化させ,NMRは空間分解能が低く,単一液滴での測定,細胞内液滴への応用が難しい.そこで本研究では,非標識の液滴1個を測定できるラマンおよびブリルアン顕微鏡を応用し,単一液滴の各種物理量 (濃度,粘弾性など) を非標識で定量する手法の開発を目指す.神経変性疾患関連タンパク質および四重鎖を形成する核酸の液滴に応用し,相分離の相図の実験的決定などから液滴物性の全容を解明する.
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研究実績の概要 |
年度前半はこれまでの研究をさらに展開し,論文として発表した.グアニン四重鎖(G4)構造をとる核酸(FMR1 RNA)とカチオン性ペプチドを混合すると,液-液相分離(LLPS)を起こして直径数umの液滴が形成される.核酸もペプチドもこの液滴内に局在することが蛍光標識による実験から分かっていた.我々はこの液滴に,非標識で定量測定が可能なラマン分光法を適用した.修士課程で開発した,ラマンスペクトルから液滴内の生体高分子濃度を定量する手法を応用し,液滴内での核酸,ペプチドの濃度がそれぞれ75 mM,125 mMであり,これが互いの電荷を打ち消しあう濃度であることを解明した.また,核酸がG4構造をとるカリウムイオン中ではLLPSが起き,一本鎖となるリチウムイオン中では起きないことも発見した. そこで,核酸のG4/non-G4を切り替えることでLLPSのON/OFFの切り替える機構を着想した.G4/non-G4の切り替えには,Wangらによって合成されたアゾベンゼン誘導体Razoを用いることとした.Razoは紫外光と青色光の照射でtrans/cisの光異性化が起こり,G4核酸と混合すると,trans体のときは核酸がG4をとるのに対しcis体では一本鎖となることが報告されている.ここにカチオン性ペプチドを混合することで,Razoがtrans体のときは核酸がG4をとりペプチドとLLPSを起こす.一方でRazoがcis体のときは核酸のG4がほどけてLLPSを起こさない.そしてこれらの2状態を紫外光と青色光の照射で切り替えられると考えた. 現在までの成果として,Razoがcis体でLLPSを起こしていない試料に対し,青色光照射でRazoのtrans化を誘導しLLPSを起こすことに成功した.しかし紫外光照射によるLLPSの抑制に成功していない.調製条件や核酸の配列を検討し,問題解決を目指している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の遂行にあたり必要な実験環境 (試薬類,光源,観察装置,暗室) の整備がすでに完了している.またLLPSのOFFからONへの片道には成功したので,この逆が進行できればこの技術を使った応用段階に入ることができる.ONからOFFの過程が進行しない原因は,液滴内外のラマンスペクトルの解析から絞り込めており,判明し次第解決策を講じる予定である.また,G4をはじめとする核酸構造を専門とされる甲南大学の三好大輔教授の協力も得られており,当研究室が得意とする分光学的視点以外からも評価する準備が整った.これらの理由から,研究はおおむね順調に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
当面の計画としては,現在達成できていない紫外光照射によるLLPSの解消の原因究明と対策を行う.LLPSの解消は,(1) Razoのcis化,(2) 核酸のG4のアンフォールディング,(3) LLPSの解消の3ステップで構成されている.まずは各種分光法で紫外光照射前後の液滴内外を測定し,どのステップで止まっているのかを特定する.これまでのラマン測定の結果からは,最初のRazoのcis化がうまくいっていない可能性が示唆されている.希薄溶液中では進行する反応が液滴内では進行しない理由を考え,解決案を検討する.これと並行して,核酸やペプチドの配列や,G4の切り替え用の光応答性分子の設計も検討したい.よりLLPSが起きにくくなるような試料を用いることで,解決に近づくと予想している. 長期的な計画として,LLPSの光制御機構が完成した後は,この技術を分子ロボティクスに発展させたい.核酸で構成された分子ロボットの一部にG4配列を挿入することで,均一に分散した状態と液滴内に濃縮された状態を光で制御できる機構を搭載できると期待している.
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