研究課題/領域番号 |
23KJ0171
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分13040:生物物理、化学物理およびソフトマターの物理関連
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
伊藤 将 東北大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,700千円 (直接経費: 2,700千円)
2025年度: 900千円 (直接経費: 900千円)
2024年度: 900千円 (直接経費: 900千円)
2023年度: 900千円 (直接経費: 900千円)
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キーワード | 集団運動 / 魚群 / 自己駆動粒子 / 逆カルマン渦 / 視覚相互作用 / 網膜 |
研究開始時の研究の概要 |
魚は向きの揃った群れや,回転する群れなど,多様な集団運動を示す.その運動機構を理解することは,物理学のみならず,ロボット工学や環境生態学の観点からも期待されている.本研究では,集団における魚間の情報のやり取りを数式としてモデル化する.特に魚の場合,視覚による情報と流体による情報が主要な情報源である.これらを生理学的な神経回路等の最近の実験的知見を用いてモデルを構築し,従来のモデルでは立ち入ることのできなかった,群れの挙動の定量的な再現,一致を目指す.
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研究実績の概要 |
本年度の予定を元に,魚の集団運動の物理的モデル構築について十分に研究を遂行することができた. 逆カルマン渦を介した2匹の魚の流体相互作用については,当初の予定であった自己駆動粒子に現象論的な尾の運動の位相の概念を導入するのではなく,より流体力学の原理的描像に基づいたモデルを構築することができた.このモデルにより,2匹の間の尾の運動の位相が自発的に同期し,エネルギー消費が単独遊泳の場合よりも減少することが示された.この結果はこれまでのロボットによる推察を支持するものである.一方で,エネルギー消費は最小化されていないという予想外の結果が得られた.この結果は,エネルギー消費に関するより効率的な遊泳が存在することを示唆するものであり,今後の工学的な応用にも期待される.本研究に関して「Physics of Fluids」誌にFeatured Articleとして掲載された.また,本研究について「日本物理学会」で口頭発表を行い,発表に対して賞を受けた. 視覚相互作用を介した集団運動に関しては,視覚刺激に基づいた視線の方向の運動を加味したモデルを構築することができた.網膜上の視神経細胞の機構をもとに,周囲の魚の像を刺激とした電気信号を表現した.続いて,視線の注意の方向が駆動され,注意の先の像の情報に基づいて自身の運動が決定されるようにした.これより,先行モデルでは再現することのできていなかった選択的な意思決定と多数匹での多様な集団パターンを両方示すことのできるモデルが構築できた.本研究については,原稿を論文誌に投稿中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
逆カルマン渦の研究に関しては,当初の予定では点粒子による位相を変数としたモデルを想定していたが,より具体的な流体描像に基づくモデルを構築することができた.尾の筋肉によって駆動される平板を介した流体力を計算し,単独遊泳の速度と尾の振動数の比例関係を実験と一致する形で再現することができた.このモデルでは尾の運動の位相が時間的に自発的に変化し,それに伴い魚の位置も変化する.この時,渦による流体相互作用を介して2匹の魚の尾の位相の同期現象を再現できた.特に2匹の魚は同期しつつ互いに自発的に近づき,エネルギー消費が単独遊泳の場合よりも減少した.ただし,同期している際のエネルギー消費は最小化されていないという興味深い結果が得られた.これは予期していない結果であったが,先行のロボット研究でも非最小化を示唆するデータが得られており,本モデルはその結果を支持する結果となった.最終的に当初の計画よりも流体の記述を正確にしたことで示唆に富む結果を得て論文化され,十分に計画を進展させることができた. 視覚相互作用の研究に関しては,当初の計画と同じく周囲の魚の像を用いて自身の運動を決定する自己駆動粒子モデルを構築した.ただし,当初の確率を用いた描像ではなく,より生理学に基づいた網膜上の神経機構に基づいたモデルとなった.このモデルにより,向きの揃った群れのみならず当初は期待していなかった回転集団運動パターンまでもが出現し期待以上の結果になった.さらに近年の実験でキーワードとなっていた選択的意思決定をも再現することができ,先行の自己駆動粒子モデルを大きく越えることができた.この結果を年度内にプレプリント化でき,現在論文誌に投稿中である.
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今後の研究の推進方策 |
視覚相互作用のモデルについては,やはり計算コストが高く1000粒子,10000粒子系にアプローチすることは難しかった.実際の魚群では個体数がこのオーダーに及ぶため,より粗視化したモデルの構築が必要である.そこで,現在連続体的描像のモデルを構築する計画を立てている.ただし,アプローチの根幹は周囲の魚の像を用いて自身の行動を決定するというものであり,当初の計画の拡張的研究となる. また,今回の視覚相互作用のモデルにおいて多様なパターンをすでに得ることができたが,魚群現象の全てが記述できたわけではない.10粒子程度では群れが分散してしまうことや,相互作用力の空間的マップのより正確な再現は達成できていない.これに対しては,当初の計画通り,側線によるアクティブな流体相互作用を含めて解決を図る予定である.
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