研究課題/領域番号 |
23KJ0193
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分44020:発生生物学関連
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
眞鍋 柊 東北大学, 医学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,000千円 (直接経費: 3,000千円)
2025年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
2024年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
2023年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
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キーワード | 神経発生 / 大脳皮質発生 / 雌雄差 / Pax6 / Pbdc1 |
研究開始時の研究の概要 |
ヒトにおいて、自閉スペクトラム症(ASD)をはじめとした脳の病気の発症頻度とその病態について男女差があることが知られている。しかしながらASD病態との関連が深い脳領域である大脳皮質に関して、性ホルモンの影響が小さい出生前に、どのようにして男女差が形作られるのかは、未だ明らかになっていない。本研究は、Pax6遺伝子に変異を有するラットがASD様行動ならびに大脳皮質の形態に顕著な雌雄差を示すことに着目し、Pax6遺伝子変異マウスを対象とし、従来の通説である生後の性ホルモンの影響に起因しない、出生前における大脳皮質の性分化メカニズムの解明を目的とする。
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研究実績の概要 |
本年度は、成体脳の形態、自閉症様行動の表現型に顕著な雌雄差が予測されるPax6変異マウスを用い、(1)新生仔脳の大脳皮質におけるニューロン密度に関する雌雄差の検証、(2)胎仔大脳皮質における細胞増殖活性に関する雌雄差の検証、(3)胎仔脳のbulk RNA-seqから雌雄差に関わる遺伝子の選定を実施した。(1)に関して、全脳透明化技術を用いた3次元(D)イメージングと全脳全細胞解析技術を用いた解析のため、本年度末に研究室に導入された卓上型ライトシート顕微鏡のセットアップを進め、来年度より透明化条件・3D染色条件の検討を開始する。(2)に関して、胎齢14.5日の野生型・Pax6変異ヘテロ接合型・ホモ接合型マウス脳標本の凍結切片を作製し、PHH3の免疫染色によりM期にある増殖細胞の割合を、Sox2とTubb3の共染色により神経幹細胞層とニューロン層の割合に関する雌雄差を調べたが、胎齢14.5日時点においては顕著な雌雄差は見られなかった。そこで、EdU と Ki67 を用いた標識により、細胞周期を離脱してニューロンへと分化する細胞数に関して、その雌雄差の調査を進めている。(3)に関して、胎齢14.5日の野生型・Pax6変異ヘテロ接合型・ホモ接合型マウス終脳を用いたRNA-seq解析データを用い、生後の脳形態・行動に異常を呈するヘテロ接合型胎仔において、雌雄で異なる発現量を示す遺伝子の選定を行った。ヘテロ接合において発現量に雌雄差を示した59遺伝子に関してqPCRにより再現性を確認した結果、Pbdc1遺伝子が一貫してヘテロ接合の雌において高発現を示すことを見出した。Pbdc1は分子機能および局在も不明であったことから、in situ hybridization法を用いてPbdc1 mRNAの局在を調べたところ、胎仔大脳皮質の神経幹細胞において強く発現する遺伝子であることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画書記載の通り、本年度は(1)新生仔脳の大脳皮質におけるニューロン密度に関する雌雄差の検証、(2)胎仔大脳皮質における細胞増殖活性に関する雌雄差の検証、(3)胎仔脳のbulk RNA-seqから雌雄差に関わる遺伝子の選定を実施した。(1)に関して、全脳透明化技術を用いた3次元(D)イメージングと全脳全細胞解析技術を用いた解析のため、本年度末に研究室に導入された卓上型ライトシート顕微鏡のセットアップに加え、3D染色の予備検討として、生後10日の野生型マウス・Pax6変異ヘテロ接合型マウス脳標本より凍結切片を作製し、第6層ニューロンのマーカーであるTbr1、第5層ニューロンのマーカーであるCtip2、第2-4層ニューロンのマーカーであるCux1の抗体染色の条件検討を実施し、定量解析を進めることができた。(2)に関して、PHH3の免疫染色によるM期にある増殖細胞の割合の計測に加え、Sox2(神経幹細胞)、Tbr2(中間型前駆細胞)、Tuj1(ニューロン)の蛍光免疫染色を実施し、各細胞層の割合に関する雌雄差の検証を進めることができた。(3)に関して、Pax6変異マウス終脳を用いたRNA-seq解析データおよびqPCRの結果から、Pbdc1という機能未解明の遺伝子が、雌のPax6変異ヘテロ接合マウス胎仔大脳皮質において高発現することを見出した。加えて、ChIP-Atlasデータベースを利用し、Pbdc1のプロモーター領域近傍に結合しうる転写調節因子を探索したところ、Pax6に加え、H3K27me3の脱メチル化酵素であり、胎仔大脳皮質において雌優位の発現を呈する遺伝子Kdm6aが、雌におけるPbdc1の発現上昇を誘導する因子の候補として同定された。上記の結果から、研究計画書に記載の内容と比較して、おおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の結果を踏まえ、今後は(1)3次元(D)イメージングと全脳全細胞解析技術を用いた新生児脳におけるニューロン密度に関する雌雄差の検証、(2)胎仔大脳皮質におけるPbdc1の発現様態および分子機能の調査、(3)雌のPax6変異ヘテロ接合におけるPbdc1の発現上昇を誘導する要因の探索を行う。(1)今後は、研究室に導入された卓上型ライトシート顕微鏡のセットアップに加え、透明化・3D染色の条件検討を実施し、野生型、Pax6変異ヘテロ接合、ホモ接合マウス大脳皮質の領域・神経細胞層ごとの細胞密度と分布に関する雌雄差の解析を進める。(2)胎齢14.5日のPax6変異ヘテロ接合型胎仔の大脳皮質において、発現量に顕著な雌雄差を示す遺伝子として同定された機能未解明の遺伝子であるPbdc1に関して、胎齢12.5日、14.5日、16.5日のマウス胎仔脳標本を用いてin situ hybridization法および蛍光免疫染色を実施し、mRNAおよびタンパク質の局在の推移を確認する。さらに、最もPbdc1の発現が高い時期を標的として、大脳皮質へ子宮内電気穿孔法によるsiRNAおよび発現ベクターを導入しPbdc1の発現量を操作することにより、大脳皮質発生におけるPbdc1分子の機能を調査する。(3)Pbdc1はX染色体上の遺伝子であり、X染色体不活性化から逃れるエスケープ遺伝子の一つとして知られているため、不活性化X染色体からのPbdc1の発現の上昇が、Pax6変異ヘテロ接合において、雌特異的にPbdc1の発現上昇が見られる要因として考えられる。そこでPax6変異ヘテロ接合の胎仔大脳皮質標本を用い、不活性化X染色体において、発現抑制マーカーであるH3K27me3が減少しているか調査する。
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