研究課題/領域番号 |
23KJ0195
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分26010:金属材料物性関連
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
宮川 寅矢 東北大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,700千円 (直接経費: 2,700千円)
2025年度: 900千円 (直接経費: 900千円)
2024年度: 900千円 (直接経費: 900千円)
2023年度: 900千円 (直接経費: 900千円)
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キーワード | マルテンサイト変態 / 固体冷凍材料 / 磁気冷凍材料 |
研究開始時の研究の概要 |
Ni-Mn基ホイスラー合金は強磁性・常磁性の相変態と無拡散変態であるマルテンサイト変態を示す。本研究では磁場によってこれらの相変態を誘起し、エントロピー(自由度)変化に基づく吸熱を利用して冷却を実現する技術に注目する。本研究では元素添加や熱処理条件の変更などによる実験的手法に加えて第一原理計算や機械学習などの計算的手法を用いて同合金系の冷却能力の向上に挑戦する。
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研究実績の概要 |
本研究は,磁気冷凍材料として有望なNi-Mn基合金に対して冷却能を向上させ,冷却時のエネルギーロスを低減することを目的として,本年度は以下の研究を実施した. Ni-Co-Mn-Sn系合金に対して様々な元素を添加し,冷却能(マルテンサイト(M)変態に伴うエントロピー変化(ΔS))と冷却時のエネルギーロス(変態ヒステリシス)について調査を行った.その結果,元素添加により,多くの場合でΔSが増大し,冷却能が向上することが示唆された.一方で変態ヒステリシスに関してはAlを添加した場合に最も低減されることが明らかになった.M変態のヒステリシスは母相とM相の結晶格子の整合性で議論されることがある.そこで,本研究においても変態ヒステリシスがAlの添加により低減した原因を調査するためにX線回折装置(XRD)の実験結果より母相とM相の格子整合性を評価し,ヒステリシスと比較した.しかし,本合金系においては格子整合性が良好であるほどヒステリシスが低減するという一般的な関係が必ずしも成立しないという結果が得られ,Alを添加した合金の格子整合性は元の4元系合金と比較して良好ではないにもかかわらずヒステリシスが小さいということが明らかになった.その原因を調査するために透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて微細組織観察を行った結果,M相内にナノレベルの双晶が多量に導入されていることが明らかとなった.このような格子欠陥が母相とM相の界面のひずみを緩和し,ヒステリシスが低減したのではないかと考えられる.通常,ナノサイズの格子欠陥をXRDで判別することは困難であるため,前述のようにヒステリシスと格子整合性の関係において一般的なトレンドからずれた結果が得られたのだと考えられる.以上のことから,ヒステリシスの大きさにはM相のナノレベルの組織が関係していることが示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
変態ヒステリシスの大きさにはM相のナノレベルの組織が関係していることが示唆された.当初予定していた機械学習は,合金のヒステリシスを低減するための学習データに大量のTEM像が必要となり,実験的コストの負担が当初の想定よりも大きいことから導入を見送っている.また,ΔSや合金の磁気転移温度の予測については機械学習を導入したが,予測モデルにおいて過学習を抑えることが難しく,データの不足している領域における外挿的予測が困難な状況であるため当初の予定より遅れが生じている.
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今後の研究の推進方策 |
本研究ではNi-Mn基合金自体の磁場誘起相変態において,変態ヒステリシスを1T以下に低減させ,永久磁石で駆動させることは現実的ではないと判断した.また,機械学習の導入も検討したが,現状では困難であると考えられる.そこで,磁気冷凍技術と同様の固体冷凍技術の一つである弾性冷凍技術に注目した. 弾性冷凍技術では応力により固相中の相変態を誘起し,それに伴うΔSを利用して冷却を実現する.Ni-Mn基合金の一つであるNi-Mn-Ti系合金は大きなΔSを有する材料として注目されている.しかし,大きなΔSが生じる起源については厳密には明らかとなっていない.本研究ではまずNi-Mn-Ti系合金のΔSの組成及び温度依存性を調査することでその起源を明らかにし,さらに大きなΔSを発現する合金を作製することを目的に実験を進める予定である. これまでの実験によりTi濃度を変化させたNi-Mn-Ti系合金を作製し,ΔSを調査した結果,広い組成・温度範囲で他の合金系を上回る大きな値が得られた.また,母相とM相の磁性を調査した結果,母相が100 K程度と低いネール点を有する反強磁性であり,M相がM変態温度以上の高いネール点を有する反強磁性であることが示唆された.したがって,およそ100 K以上の温度域において,逆M変態時には反強磁性のM相から常磁性の母相へと変態していることが明らかとなった.これは逆M変態時に格子のΔSに磁性の寄与分のΔSが上乗せされることを示唆し,大きなΔSの起源が明らかになったと言える.来年度は,同合金系について母相のネール点を下げ,M相のネール点を上げるような組成を探索し,さらに大きなΔSを発現する合金を探索する予定である.
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