研究課題/領域番号 |
23KJ0211
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分27020:反応工学およびプロセスシステム工学関連
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
中村 哲也 東北大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,700千円 (直接経費: 2,700千円)
2025年度: 900千円 (直接経費: 900千円)
2024年度: 900千円 (直接経費: 900千円)
2023年度: 900千円 (直接経費: 900千円)
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キーワード | 固体高分子形燃料電池 / 反応分子動力学法 / カソード触媒層 / プロトン伝導 / 酸素拡散 |
研究開始時の研究の概要 |
固体高分子形燃料電池(PEFC)の運送分野への飛躍的普及には高出力化が求められる。PEFCの高出力化には炭素担体、アイオノマー、Pt触媒、水から構成される触媒層(CL)の電極反応活性の向上が必要となる。そこで、従来は第一原理計算を用いたPt触媒の合金組成の最適化による「触媒設計」を通して高活性なCLを設計してきた。しかし、「触媒設計」では炭素担体構造、アイオノマー分布などのCL構造の最適化は困難であり、CL構造と電極反応活性の関係は解明不可能だった。本研究では化学反応を考慮可能な反応分子動力学法によりCLモデルの電極反応シミュレーションを実現し、CL構造の最適化による「触媒層設計」を目指す。
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研究実績の概要 |
固体高分子形燃料電池(PEFC)を運送分野へ普及するためには高出力化が望まれる。PEFCの高出力化にはPt触媒、アイオノマー、水、炭素担体からなる触媒層(CL)の電極反応活性の向上が必要となる。そのため、高い電極反応活性を有するCLの設計には、Pt触媒へのプロトンと酸素といった物質輸送特性の向上が有効である。高い物質輸送特性を有するCLを設計するためには、Pt触媒の組成、アイオノマー分布、水分量、炭素担体のメソ細孔構造などのCL構造の最適化が重要となる。そこで、CL構造を最適化するために、これまでは第一原理計算などの計算科学を用いることで、高活性なCL構造の理論的な設計を可能にしてきた。しかし、従来はCLの一部の構造しかモデル化できず、CL構造が物質輸送特性に与える影響は明らかにできないことに加え、CLの性能を評価するために必要な化学反応も考慮できなかった。そこで、本研究では、高い電物質輸送特性を有するCLの理論的な設計指針を提案するために、反応分子動力学法による100万原子からなる大規模CL構造を構築し、プロトンや酸素の物質輸送シミュレーションを実施した。初めに、炭素担体の構造によるPt触媒のプロトン伝導性の違いを比較するため、炭素担体における細孔外と細孔内のPt触媒に吸着したH+の数を解析した。その結果、細孔内のPt触媒の方がH+の吸着量は多かった。これは、細孔内のPt触媒の方がH+は伝導しやすいことを示唆している。加えて、系内に酸素分子を導入することで酸素の拡散シミュレーションも可能にした。その結果、アイオノマー中の水クラスターのサイズにより酸素の拡散性能が異なることが明らかになった。このことから、アイオノマーの水クラスターのサイズの制御が高い酸素輸送特性の実現の繋がることが示唆された。これらの成果は高い物質輸送特性を有するCL構造の設計に活かすことが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
固体高分子形燃料電池の高出力化には、Pt触媒、アイオノマー、水、メソ細孔を有する炭素担体からなる触媒層(CL)の高い電極反応活性が必要となる。そのためには、Pt触媒のアイオノマーによる被覆状態の制御によるプロトンや酸素からなる物質輸送特性の向上が有効である。そこで、高い物質輸送特性を有するCLの設計指針を提案するために、反応分子動力学法により構築したCLモデルにプロトンと酸素を導入することで物質輸送シミュレーションを実施した。初めに、炭素担体の構造によるアイオノマーの分布の違いを検討するために、炭素担体における細孔外と細孔内のPt触媒に対するアイオノマーの被覆状態を比較した。その結果、細孔外のPt触媒は高い被覆状態を示す一方、細孔内のPt触媒は低い被覆状態を示した。そのため、細孔内のPt触媒の周りにはアイオノマーは分布しないことが明らかになった。そして、Pt触媒の被覆状態がPt触媒へのプロトン伝導性に与える影響を明らかにするために、細孔外と細孔内のPt触媒に吸着しているH+の数を比較した。その結果、細孔内のPt触媒の方がH+の吸着量は多かった。これは、細孔内のPt触媒の方が低い被覆状態となることで、H+がアイオノマーの-SO3-に戻り-SO3Hを形成することを起こりにくくするためと考えられる。次に細孔外と細孔内における酸素の拡散挙動を比較するために、酸素の軌跡を比較した。その結果、細孔外の酸素はアイオノマーにより拡散を阻害された。一方、細孔内の酸素は気相中を拡散した。これらより、アイオノマーが酸素の拡散を阻害する要因になることが明らかになった。そして、アイオノマー中の水のクラスターサイズを制御することで高い酸素輸送に繋がることも示唆されたこれらの結果は高い物質輸送特性を有するCLの設計に繋がる指針に成り得ると考えている。以上の成果は国内・国際会議において報告している。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究ではPt触媒、アイオノマー、水、メソ細孔を有する炭素担体からなるCLモデルを構築し、プロトンと酸素を導入することで物質輸送シミュレーションを実施してきた。そして、炭素担体のメソ細孔やアイオノマー分布などのCL構造がプロトンや酸素といった物質輸送特性に与える影響について明らかにしてきた。しかし現在、本研究で作成した触媒層(CL)モデルは単一粒子の炭素担体から構成されており、実際のCLである多数の炭素担体が凝集した3次元ネットワーク構造までは実現できていない。 そのため、今後の推進方策としてPt触媒、アイオノマー、水、メソ細孔を有する多数の炭素担体により、3次元ネットワーク構造を有する大規模CLモデルを構築する。大規模CL構造の計算を行う際にはメモリ不足が問題となる。そこでメモリ不足を解決するために、これまでに開発してきた反応分子動力学シミュレータへMPIによるノードプロセス並列とOpenMPによるノード内スレッド並列を組み合わせたハイブリッド並列化を実装する。そして、3次元ネットワーク構造を有する大規模CLモデルを構築することで、①炭素担体におけるメソ細孔構造と表面状態、②3次元ネットワーク構造により形成される空孔率・アイオノマーと炭素担体の重量比、③細孔中における水分量・細孔容積などの最適化に取り組んでいく。これらの取り組みを通して、高い電極反応活性を示すCLの3次元ネットワーク構造の設計に向けた理論的な指針の提案を行う。
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