研究課題/領域番号 |
23KJ0240
|
研究種目 |
特別研究員奨励費
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分35010:高分子化学関連
|
研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
岩森 涼太 筑波大学, 理工情報生命学術院, 特別研究員(DC2)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
1,800千円 (直接経費: 1,800千円)
2024年度: 900千円 (直接経費: 900千円)
2023年度: 900千円 (直接経費: 900千円)
|
キーワード | コバルト触媒 / ポリアリーレンビニレン / 反応位置選択性 / 構造制御 / 共役系高分子 / 有機半導体材料 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、我々がこれまで開発してきたヒドロアリール化重付加という重合反応を用いて有機薄膜太陽電池(OPV)や有機発光ダイオード(OLED)に使用する半導体材料の環境低負荷な合成や高機能化を目指している。ヒドロアリール化重付加は脱離成分を全く排出しないため、簡便な精製操作で高純度な半導体材料を合成できる。重合触媒やモノマーの構造を最適に設計することで、高分子半導体の精密合成を実現し高機能化を図る。
|
研究実績の概要 |
本年度 (2023年度) は、コバルト触媒を用いたアルキンのヒドロアリール化重付加におけるモノマー適用範囲を拡張し、精密重合へと展開することを目指して研究を行った。 申請時点から採用までの準備段階において、アミド配向基を導入したビチオフェンモノマーのヒドロアリール化重付加を実現し、様々な光電子特性を有するポリアリーレンビニレン (PAVs) の合成手法を確立した。本成果は、Macromolecules誌への論文投稿と国際会議における研究発表を通して世界へ発信した (R. Iwamori, et al., Macromolecules 2023, 56, 5407-5414.)。この知見を活かして、チオフェンモノマーにアミド配向基と末端アルキンを導入したABモノマーを設計し、開始末端を導入したコバルト錯体を重合開始剤としてABモノマーの重合反応を行った。その結果、開始末端が導入されたポリチエニレンビニレンの生成を確認した。 続いて、アミドチオフェンの間に種々の機能性ユニットを導入したC-Hモノマーを設計し、エチニルチオフェンを反応点とするジインモノマーとの重合により、狭いバンドギャップを有するPAVsを合成した。アミドチオフェンの間に電子不足なベンゾチアジアゾールユニットを導入した場合に最も狭いバンドギャップを示し、近赤外領域の波長の光を吸収するPAVsの合成に成功した。さらに、配向基とコバルト触媒の強い相互作用に着目し、芳香族六員環化合物であるナフタレンやカルバゾールのヒドロアリール化重付加を30 ℃という温和な条件下で進行させることに成功した。また、重水素化試験やDFT計算、単結晶X線構造解析を用いることで、配向基の種類及び導入位置といったモノマー構造の設計指針を確立した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ABモノマーの精密重合への展開に関する研究において、開始末端を導入した目的のポリチエニレンビニレンが合成できた一方で、分子量及び分子量分布の制御は未だ達成できていない。重要な素反応である分子内触媒移動を起こりやすくするために、反応温度を10 ℃まで下げ、基質濃度を薄くして重合を行ったが結果は変わらなかった。重合初期には成長末端よりもモノマーが多いため、目的の分子内触媒移動よりも分子間反応が優先的に起こってしまったことが原因であると考えている。今後。モノマーの構造や実験系の見直しを行うことで精密重合への応用を模索していく。 2023年度の計画は途中段階であるが、2024年度に実施を予定していた「アミドチオフェンの間に種々の機能性ユニットを導入したC-Hモノマーを設計・合成とエチニルチオフェンを反応点とするジインモノマーとの重合」は順調に進行し、狭いバンドギャップを有するPAVsが狙い通りに合成できた。モノマー設計における側鎖の更なる設計の必要性も明らかになっており、今後さらに本研究が展開されていくことが期待できる。本年度で挙げた成果は現在論文執筆中であり、対外的に発表を進めることを計画している。
|
今後の研究の推進方策 |
開始末端を持つコバルト触媒を用いたABモノマーの重合において、反応系の低温化とモノマー濃度の希釈だけでは分子内触媒移動を完全に制御して単分散なポリチエニレンビニレンを合成することは困難であった。そこで今後の対応策として、実験系の見直しを図る。具体的には、開始剤に対してモノマーを一度に全量添加するのではなく、少量ずつ分けて添加することで重合初期における分子間への触媒の拡散を抑制し精密重合が達成できるのではないかと考えている。 今年度に前倒しして行った、「チオフェン系モノマーの設計に基づく狭バンドギャップなポリアリーレンビニレンの合成」と、「ナフタレンモノマーの反応位置選択的なヒドロアリール化重付加の開発」を通して、新たな研究課題を見出した。 現在使用しているチオフェン系モノマーが持つアミド基は有機半導体に応用する際に電荷のトラップサイトとして働いてしまい、ポリマーの高性能化を妨げることが分かった。そこで、今後の推進方策としてアミド側鎖をエステル側鎖に変換することによる高分子半導体としての高性能化を目指す。 また、ナフタレンモノマーの設計において、配向基の構造と導入位置が高い反応性と反応位置選択性に重要であることが明らかになった。そこで、今後の推進方策として配向基としてチアゾール基やトリアゾール基を導入したナフタレンモノマーのヒドロアリール化重付加の開発を行う。チアゾール基は重合後にPd触媒を用いて官能基化することが可能であり、様々な光電子特性を持つポリアリーレンビニレンの合成が期待できる。 また、トリアゾール基は2022年にノーベル賞を受賞したクリック反応を用いて簡便かつ置換基に寛容に導入できることが知られている。親水性の置換基を持つトリアゾール基を導入することで、アルコールや水に可溶な発光性ポリマーの合成が期待できる。
|