研究課題/領域番号 |
23KJ0323
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分90020:図書館情報学および人文社会情報学関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
比護 遥 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
2025年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2024年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2023年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
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キーワード | 台湾 / 中国 / 改革開放 / 科学 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、思想や価値観の形成に関わる「読書」という行為がいかなる地政学的文脈に規定されてきたかについて、文化的共通性を持ちながらもイデオロギーによる分断を余儀なくされてきた冷戦期の東アジアを対象に歴史的に検証しようとするものである。漢字文化圏における古典の共有、帝国主義的拡張に伴う知のヘゲモニーの変化、書籍の翻訳を通した社会主義の輸出など、読書をめぐる諸問題はいずれも東アジアの国際関係から切り離すことができない。本研究では、台湾と香港を中心としつつ、中国大陸や日本、アメリカなどとの相互作用を考慮に入れながら、学知が書籍を通していかに流通したかをネットワークとして捉える読書史を構想する。
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研究実績の概要 |
本研究は、読書を通した知識の流通に主眼を置きながら、それが地政学的文脈に規定されてきたかについて、文化的共通性を持ちながらもイデオロギーによる分断を余儀なくされてきた冷戦期の東アジアを対象に歴史的に検証しようとするものである。とりわけ漢文による共通の古典を持ちつつ複数の分断国家が生まれた東アジアには、単純な二項対立だけには還元しきれない複層的な知の構造があったことに留意しつつ、域内最大の共産国となった中華人民共和国及び、それと同じ言語圏にありながら資本主義陣営の最前線に立たされることになった台湾と香港に焦点を当てて、文化-政治の諸相のグローバルな視点からの把握を目指す。 1年目となる本年度は、主に台湾での在外研究を通して、台湾と大陸の関係性に注目して研究を進めた。まず、以前から進めてきた近現代中国における読書の文化政治的状況に関する研究について、大陸の読書環境についての同時代の台湾からの視点を加えたうえで、研究書(『近現代中国と読書の政治:読書規範の論争史』東京大学出版会、2024年)として刊行した。さらに、研究を進める前提となる中国メディア史や改革開放史の包括的なレビューを行ったうえで、特に1970年代から1980年代にかけての科学に関する知識の生成と流通を中心に具体的な研究を進めた。これまでの調査から、この頃、中国大陸と台湾において同時的に科学技術を中心とする新たな知識への欲求が高まり、科学的予測による未来構想を行う未来学や、それに基づく科学的な政策決定を試行する意思決定学などの独自の学知が生み出されたことがわかった。これらの成果は既に国内外の学会・研究会において口頭報告として発表したり、または発表のエントリーをして受理されたりした。同時に、論文として投稿するための文章化の作業も概ね終えることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年4月から2024年2月にかけて、台湾・国立政治大学台湾史研究所に訪問学者として在外研究を行い、研究の方向性の確定と資料調査を進めた。研究手法としては、雑誌や新聞、書籍などの文献調査を主とした。なかでも、台湾の未来学運動のなかで発行された雑誌『明日世界』(1975-1988)が、政治大学図書館に所蔵されており、研究対象の全体像を把握する上で大いに役立った。政治大学図書館のほか、国家図書館や国立台湾図書館、台北市立図書館、また台湾大学、淡江大学、中央研究院の図書館でも調査を行った。このほか、淡江大学未来学研究所の陳瑞貴教授への聞き取り調査も行った。 研究成果の公表については、まず、中国の読書についての博士論文までの研究と合わせて、今年度に台湾で行った追加調査の結果も反映させた『近現代中国と読書の政治:読書規範の論争史』が2024年3月に東京大学出版会から出版された。また、新たなテーマに取り掛かるうえでの基礎作業として、中国のメディア史の先行研究を整理した結果については、2023年10月に中国現代史研究会で「「中国メディア史」を構想する」としてオンラインで口頭報告した。この内容は、研究ノートとして『現代中国研究』に投稿しており、現在は査読対応中である。さらに、2024年7月にオーストラリアのカーティン大学で開かれるthe 25th ASAA Biennial Conferenceにおける“Futurology in Taiwan and Mainland China: Geopolitical Imagination of Futures in the Late 20th Century”と題した報告が受理された。
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今後の研究の推進方策 |
すでに報告が受理されたthe 25th ASAA Biennial Conferenceをはじめとして、複数の学会・研究会で研究成果の報告を行う予定が決まっており、そこでのフィードバックを受けたうえで、論文として公表する段階へと移りたい。特に、台湾における調査から判明した論文化の見込みのあるテーマとして、中国大陸と台湾の両岸における未来学、意思決定学、宇宙開発、世論調査の4つが挙げられる。それぞれ、Asian Studies Review、Modern Asian Studies Review、『メディア研究』、『人文学報』への投稿を検討している。この作業を進める過程で、台湾や日本では十分に収集できなかった資料について、上海で補足調査を行うことにしたい。とりわけ、上海図書館に所蔵される改革開放期の雑誌、『決策与信息』などの調査を予定している。中国での調査をめぐっては、コロナ禍以降思うように行えない状況が続いていたが、最近はビザの取得も容易になってきており、具体的な渡航方法について関係者から情報収集しつつ検討を進めている。
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