研究課題/領域番号 |
23KJ0355
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分30020:光工学および光量子科学関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
伊知地 直樹 東京大学, 生産技術研究所, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2024年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2023年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | plasmonics / ultrafast optics / photoemission |
研究開始時の研究の概要 |
分子の分解や合成に代表される化学反応制御には、時間・空間的に強い電場の局在が必要となる。金属界面に局在する表面プラズモン(Surface plasmon: SP)が有する強い電場の局在性は高効率かつ高選択的な化学反応制御法の可能性を有しているが、プラズモン共鳴によって引き起こされる現象は電場増強や電化励起、熱反応などによる複合反応であり、反応プロセスの理解は容易ではない。本研究では、プラズモンを介して生じる化学反応を超高速時間分解測定することで、フェムト秒からナノ秒スケールの幅広い時間スケールで生じる複雑な複合的な反応を詳細に理解することを目的とする。
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研究実績の概要 |
本研究では、電子移動を起点として生じる化学反応の観測のため、光電子放出を高効率に起こすエミッターの開発及び化学反応の高速分光測定を目的としている。本年度は主に水溶液中に光電子を高効率に放出するエミッター構造の設計及び作成を行った。時間差を設けた二つのパルスで超高速現象を観測するpump-probe手法での測定に利用するためには超短パルスの入射を起点とした光電子放出を起こす必要がある。このため、入射波束の波長において共鳴波長を持ち、瞬間的に強い電場の局在を示すplasmonicアンテナ構造を作成している。利用を想定している光電子放出には多光子放出過程と高電界放出過程の二種類があるが、本年度は多光子放出用の構造の設計及び製造、放出された電子の測定実験を実施した。透明基板上において金属薄膜上に微細構造を集積することにより、高い増強電場強度と電流読み出しのための電極としての機能を有する構造を作成した。 加えて、電磁界シミュレーションによるアンテナ構造を設計する過程において、金属構造近傍において生じる増強電磁場の空間分布が入射光の偏光状態を強く反映することが明らかになった。特に円偏光を照射した場合には空間的にねじれた電場強度分布が生じ、右回り/左回り円偏光の切り替えによって外的に電磁場分布が制御可能であった。先行研究を調査した結果、正方形構造におけるねじれた電場分布を説明するモデルがこれまでに存在していなかったことが判別したため、電磁界シミュレーション及び数理モデルを用いた解析により現象の発生条件及び起源を特定し、原著論文として出版した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
中心波長800 nm、時間幅50 fs以下の近赤外パルスレーザーに合わせて多光子放出を起こすように構造を設計した金属グレーティング構造及び周期スリット構造を作成し、パルス光の入射に起因して生じる光電子放出電荷の電流読み出しを行った。 電子線描画装置及びFocus ion beamを用いた作成プロセスにより、設計した構造長を有した微細構造の作成が可能なこと、作成した構造を用いた電流測定実験を通してレーザーを照射している間のみ光電子放出が生じていることも確認することができた。微細構造表面の形状粗さの向上及び加工時の残留レジストの除去に関しては加工プロセスの調整を必要とするものの、おおむね順調に進展しているとした。
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今後の研究の推進方策 |
前年度は設計値とおおむね一致する微細構造の作成には成功したが、構造の表面粗さ及び微小部分の精度、表面残留物に課題が残った。本年度は第一にこれらの課題点を改善することで微細加工プロセスを確立する。 続いて、現在構築した電流検出系に化学反応を観測するための系を追加することで光電子放出によって生じる現象の観測を行う。水溶液中に電子を放出した場合には直ちに水分子と電子の間に相互作用が生じ、水和電子が発生するが、この水和電子は幅広い共鳴波長を有するため可視から近赤外域のレーザーで観測が可能である。超短パルスレーザーを起点とした光電子放出の電流測定と放出された電子と分子の反応を同時に取得する実験系を構築することで放出される電子の条件が反応に与える影響を観測することを目指す。 加えて、前年度研究過程において、微細構造に超短パルスを照射した際に生じる増強近接場のもつ通常の伝搬光とは異なる特性が物質との相互作用の観測において有用である可能性を示唆する理論計算結果を得ることができた。上記実験と平行して実験可能性の探索を行う。
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