研究課題/領域番号 |
23KJ0369
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分45020:進化生物学関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大友 洋平 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
1,800千円 (直接経費: 1,800千円)
2024年度: 900千円 (直接経費: 900千円)
2023年度: 900千円 (直接経費: 900千円)
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キーワード | 甲殻類 / 後胚発生 / 性的二型 / 形態形成 / 脱皮 / 非決定成長 |
研究開始時の研究の概要 |
動物の多様な形態は受精から成熟に至るまで、一生を通して様々な修飾や改変を受けて作られる。しかし発生学的な知見の多くは胚発生に偏り、孵化後の後胚発生の過程をも含めた研究例は乏しい。軟甲綱端脚目に属するワレカラは浮遊幼生期を持たない直達発生の様式を持ち、胚発生で特異なボディプランを形成し、後胚発生で形態の修飾と改変を受けて極めて顕著な性的二型が発現する。本研究ではワレカラの1種・トゲワレカラを材料とし、胚発生と後胚発生における形態形成過程の観察と記載、その発現に関わる分子基盤の解明、及び近縁他種 (ヨコエビ類) との比較から、ワレカラ特異的な形態の一生を通した形成機構とその進化過程の解明を目指す。
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研究実績の概要 |
甲殻類端脚目に属するワレカラは,近縁種から一部の体節や付属肢が退化した特異な体制を持ち,さらに後胚発生の過程で顕著な性的二型が発現する.またワレカラ類は浮遊幼生期を持たない直達発生であるため,生涯を通じた形態形成機構の解析が可能である.しかし,ワレカラ類の発生学知見は非常に乏しく,その分子機構もほぼ未解明であった.本研究では,ワレカラ類の一生を通した形態形成過程とその獲得機構を解明することを目的として,1) 胚発生におけるワレカラ特異的ボディプランの形成過程,及び 2) 後胚発生における形態変異,特に性的二型の発現・発達過程に着目し,それらの観察・記載と分子発生機構の研究を並行して進めている. 2023年度はまず,モデル種であるトゲワレカラの胚発生・後胚発生の各ステージのサンプルを用いたRNA-seqを行い,同種の一生で発現する遺伝子のトランスクリプトームデータベースを作成した.研究2は顕著な進展があり,まずワレカラ類の生殖腺の発達と性的二型の発現との関連を明らかにし,この結果は日本動物学会にて発表した.また孵化幼体の飼育系を確立し,モデル種の脱皮・成長に伴う形態変異を追跡した結果,本種では特に性成熟後の脱皮回数や成長率に顕著な雌雄差があることがわかった.次に,性的二型の発現・発達や成長パターンの雌雄差を生み出す因子を特定するために,リアルタイム定量PCR (qPCR) による発現解析を行った結果,多くの動物で変態に関わるファルネセン酸メチル (MF) の合成や,性特異的因子である doublesex (dsx) の発現変動がモデル種の性的二型の発達に関与していることが示唆された.研究1については,候補遺伝子の配列は既に得ており,発現局在解析の予備的な実験も行っているが,特に発生初期の胚の処理に技術的な問題があり,体系的な実験系の確立が今後の課題となっている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究2については,トゲワレカラの後胚発生過程における外部形態の変化に加えて,生殖腺の発達,及び脱皮齢の情報を追加することができた.また,発現解析によって性的二型の発達や脱皮パターンの雌雄差に寄与すると思われる遺伝子を同定することができたため,計画以上の進展があったといえる.研究1については実験系の確立が急務であるが,解析対象となる候補遺伝子の配列は得られていること,及び予備的な実験を行って,発生後期の胚では技術的な問題をクリアできていることから,概ね計画通りに進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
研究2については,モデル種における生殖腺の発達過程と性的二型の発現との関連に関するデータは,これまでに概ね取得が完了しているため,2024年度中に論文化して国際誌へ投稿する.また,性成熟後の脱皮回数や成長率が異なる例は数種の甲殻類で報告されているが,ワレカラ類では初の知見である.ワレカラ類は飼育が容易で,かつ世代時間も1か月程度と比較的短いため,甲殻類において脱皮や成長がどのように制御されているのかを知る上で興味深い材料となりうる.そのため,今後は脱皮齢や脱皮周期を判定できる形質の探索,及び脱皮ホルモンの発現動態等のデータを取得して追加したうえで,1報の論文にまとめて発表しようと考えている.さらに,qPCRからMFやdsxが性的二型の発達に関与していることが示唆されたが,今後はこの仮説を検証するために,モデル種に対するMFの投与実験や RNA干渉法による遺伝子の機能阻害実験の系の検討も合わせて行っていく. 研究1に関しては,近縁なヨコエビ類では詳細な発生学的知見に加えて,実験プロトコルも数多く蓄積されているため,まずはこれらを参考に発現局在解析 (抗体染色,及び in situ hybridization) の系の確立を目指す.その後,モデル種の受精卵を用いて,体節形成や付属肢形成に関わる遺伝子の発現解析を行って,そのパターンをヨコエビ類と比較することで,胚発生で形作られるワレカラ特異的なボディプランが如何に獲得されたのかを検討していく予定である.
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