研究課題/領域番号 |
23KJ0413
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分44040:形態および構造関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
下山 紘也 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,000千円 (直接経費: 2,000千円)
2024年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
2023年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
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キーワード | 軟骨魚類 / 生殖制御 / 卵殻腺 / 卵殻形成 / プロゲステロン / RNA-seq / 器官培養 |
研究開始時の研究の概要 |
軟骨魚類の生殖制御機構の理解は、非常に遅れている。本研究では、軟骨魚類の生殖の核である多機能器官「卵殻腺」の機能制御メカニズムを、卵生種であるトラザメを用いて明らかにする。卵殻腺の機能、特に「卵殻形成」と「貯精精子の放出・活性化」に注目し、卵殻線の時空間的トランスクリプトーム解析並びに器官培養系を中心にそれらの機能を制御する因子を同定する。最終的には、トラザメで得られた知見を胎生の板鰓類で比較検討し、軟骨魚類の多様な繁殖様式の進化の理解を目指す。
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研究実績の概要 |
本研究の目的は、軟骨魚類の生殖の多機能中核器官「卵殻腺」の機能制御メカニズムを、卵生種であるトラザメを用いて明らかにすることである。 本研究開始までに、雌のトラザメにプロゲステロン(P4)をin vivo投与すると、卵殻の一部であるツルの形成と卵殻内液の分泌が誘導されること、卵殻形成領域内には「ツル形成領域」と「殻(カラ)形成領域」が存在することを見出していた。令和5年度は、申請者が確立した卵殻腺新鮮凍結切片から各機能領域を特異的に切り出す手法を用いてRNA-seq解析を進めた。その結果、ツル形成領域では、P4投与によってMAPKカスケードやアデニル酸シクラーゼの活性に関わる遺伝子が発現上昇していることがわかった。さらに、プロスタグランジンE2の受容体EP4サブタイプ(ptger4)の発現がツル形成領域特異的に上昇することも明らかとなった。In situ hybridizationの結果、卵殻全体を形成中の卵殻腺においてもptger4はツル形成領域のみで発現していた。このことは、ptger4は卵殻形成の中でもツル形成特異的に機能していることを示唆している。一方で、卵殻のツル以外の部分(カラ)の形成に関与する因子を同定するため、卵殻全体を形成中の個体をエコーにより同定して卵殻腺のRNA-seq解析を進めた。その結果、「ツル形成」と「カラ形成」のどちらの領域でもP4上昇時にリラキシン受容体遺伝子の発現が上昇していた。また、ツル・カラ形成のどちらにも関与する可能性が高いシグナル経路(ERK1/2経路)や関連遺伝子を複数同定することができた。6年度には各遺伝子のはたらきを詳細に調べることでツル・カラの形成制御機構の全体像が掴めると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
トラザメでは排卵・卵殻形成前にP4のサージが起こること、さらにはP4投与により卵殻腺から卵殻の一部であるツルの形成が誘導されることを明らかにし、この内容を原著論文としてまとめ発表し、プレスリリースも行なった。5年度には、申請者がこれまでに開発した卵殻腺新鮮凍結切片から各機能領域を特異的に切り出す方法を用いて、領域特異的なRNA-seq解析を進めた。各機能領域で発現変動解析を行った結果、ツル形成領域ではP4投与により多くの遺伝子の発現が変動しており、中でもMAPKカスケードやアデニル酸シクラーゼの活性化に関与する遺伝子など、細胞内シグナル経路に関わる遺伝子が多数発現上昇していることを示した。さらに、プロスタグランジンE2の受容体EP4サブタイプ(ptger4)の発現がツル形成領域特異的に上昇していた。このptger4は卵殻全体を形成中の卵殻腺であっても、ツル形成領域特異的に発現していたことから、ptger4は卵殻形成の中でもツル形成特異的に作用していることが示唆された。一方で、カラ形成に関与する因子を同定するため、ptger4の発現を指標に、卵殻全体を形成しているときの卵殻腺から各機能領域を切り出しRNA-seq解析を行った。卵殻形成時にカラ形成領域で発現が上昇する遺伝子は多数得られたものの、その多くがタンパク質合成に関わる遺伝子であった。そのような中、リラキシンというホルモンの受容体遺伝子の発現が上昇することを見出した。さらに、ツル・カラ形成に関与する可能性が高いシグナル経路(ERK1/2経路)やそれに関連する遺伝子も複数同定した。 以上の通り、卵殻腺各機能領域のRNA-seq解析に成功し、ツルならびにカラ形成に関与すると考えられる遺伝子を複数得た。並行して卵殻腺器官培養系の立ち上げも進めており、「研究は順調に進展しているもの」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度の研究により、プロスタグランジンやリラキシンといったツル・カラ形成を制御しうる因子やコラーゲン分泌への関与が示唆される細胞内経路を特定できた。一方で、RNA-seqの結果は、P4はツル形成に間接的に作用していることを示唆しており、卵殻腺機能の制御は想定よりもはるかに複雑であることも明らかとなった。そこで令和6年度には、卵殻腺器官培養系を用いて各因子がツル・カラ形成にどのように作用するのかを調べる。まずは、器官培養系の確立を進め、プロスタグランジンやリラキシンといった候補因子やコラーゲン分泌への関与が示唆された細胞内経路の活性化または阻害剤の添加実験を行い、卵殻形成に対してどのようにはたらくのかを検証していく。また、プロスタグランジンやリラキシンに関してはその合成場所も同定する。プロスタグランジンは生理活性脂質であるためその合成酵素に着目する。トラザメ全身の組織サンプルを用いて定量PCRやin situ hybridizationを行い、産生組織・部位を特定する。これにより、トラザメの生体内での卵殻形成メカニズム解明を進める。 その一方で、貯精精子の活性化・放出のメカニズムを明らかにするため、卵殻腺内における精子貯蔵部位の同定を行う。これまでに精巣と卵殻腺の形態比較は行なったが精子貯蔵部位の同定までは至らなかった。そこでオスから精子を採取し、人工的にメスの体内に送り込むことで卵殻腺内のどこに精子が貯蔵されるかを調べる予定である。 以上の方策で、トラザメ卵殻腺の機能制御メカニズムの解明を目指す。
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