研究課題
特別研究員奨励費
本研究はモデル生物線虫を用いて、ナビゲーション行動における感覚・運動情報の統合から進行方向を制御するまでの一連の神経系の情報処理機構を解明することを目的とする。線虫に感覚刺激を与えながら神経活動と行動を同時計測し解析することで、神経活動には感覚情報と運動情報がどのように表現されているのか定量的に示す。さらに実データを基に神経活動を表すモデルを作成することで行動シミュレーションを可能にし、仮説検証だけでなく実際の線虫の行動を再現するようにモデルを改良する。このように、本研究は実験によるデータの取得とシミュレーションによる検証によって神経機構の解明を目指す。
線虫は寒天培地上で背腹方向に首を振りながら前進し、餌とともに経験した塩濃度に誘引されるナビゲーション行動(塩濃度走性)を示す。本研究は線虫のナビゲーション行動において、感覚情報・運動情報を統合し進行方向を制御するまでの一連の神経系の情報処理機構を解明することを目的とした。本研究では申請者が作製した専用の微小流路を用いて首を自由に動かしている線虫に塩濃度変化を与え、塩濃度変化後の線虫の行動および神経活動の変化を定量することで線虫の感覚情報と運動情報の処理機構の解明を目指した。実験と解析の結果、SMBDという首の運動神経の活動は首の動きと強く相関すること、また首が腹側に曲がっている最中という特定の位相のときにのみSMBDは塩濃度低下に応答して活動を上昇させることがわかった。また、首が腹側に曲がっている最中のSMBDの活動の上昇が首の動きに与える影響を光遺伝学的手法によって定量したところ、SMBDの活性化によってそれ以上の腹側への首の曲がりが浅くなることを見つけSMた。これらの結果から、SMBDが塩濃度低下という感覚情報と運動情報を統合し首の動きを制御することで進行方向を調節している可能性が示唆された。さらに実験の結果と数理モデルによる行動シミュレーションを組み合わせ、SMBDの位相依存的な塩濃度低下に対する応答と首の動きの制御によって、線虫は高塩濃度方向に向かって進行方向を調節することが可能であることを明らかにした。ナビゲーション行動は多くの動物で見られる生存にとって重要な行動であるが、その制御機構の全容の解明は困難である。本研究で明らかにされた、一つの神経が感覚情報と運動情報と統合して目的地に向かって進行方向を調節する行動戦略は他の動物でも保存されている機構である可能性があり、本研究の成果はナビゲーション行動の制御機構の理解に貢献するものである。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻: 121 号: 5
10.1073/pnas.2310735121