研究課題/領域番号 |
23KJ0480
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分29020:薄膜および表面界面物性関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
谷内 息吹 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,000千円 (直接経費: 2,000千円)
2024年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
2023年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
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キーワード | 非相反伝導 / スピン流 / スピン運動量ロッキング / ラシュバ効果 / トポロジカル絶縁体 / スピン注入 |
研究開始時の研究の概要 |
電子の持つスピン自由度は新たな情報伝達手法として期待されており、それの制御方法の開発は重要な課題となっている。スピン軌道相互作用の大きな物質表面に円偏光を照射すると、スピン流が生成されることが知られており、そのセットアップの簡便さから注目を集めている。本研究は、原子層レベルで薄い物質に中赤外円偏光を照射しスピン流生成の効率化を目的としている。物質表面ではスピン分裂バンドといった特異な電子のバンド構造が現れ、ここに典型的なスピン分裂エネルギー幅に合致した中赤外円偏光を照射することで、特定方向のスピンを持った電子を効率的に励起できることが期待できる。
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研究実績の概要 |
二原子層物質Si(111)-√3×√3-(Tl,Sn)において、近赤外円偏光を照射したところ、従来知られていた振る舞いとは異なる円偏光ヘリシティ依存光電流が観測された。それは試料端で増大し、右端と左端で電流方向が逆転する光誘起逆スピンホール効果(PISHE)に酷似した非相反光電流であるが、PISHEは円偏光を試料表面に対し垂直に照射することで最も顕著に表れると考えられていたのに対し、こちらは円偏光の照射角度を斜めにするほどに増大するというPISHEの直観的振る舞いと相反するものであった。我々は詳細な実験条件の調査などにより、これは円偏光フォトンドラッグ効果(CPDE)との重畳現象であると解釈するモデルの構築に成功した。本物質は半導体基板Si(111)上に作製される表面超構造物質であり、大気中に取り出すことができない物質であるため、超高真空「その場」測定ができる本研究の強みが活かされた成果と言える。本研究は物質表面で取り出しやすいとされる電子スピンを円偏光を用いて簡便に誘起し、そのスピンが表面でどのように動き検出されるに至るかを知る大きな一助になると期待でき、現在論文執筆中である。 中赤外光を用いた測定系の立ち上げは、現在超高真空チャンバーと光学系を接続する作動排気部の調整に難航しているが、それ以外は順調である。中赤外光に対応した光学素子や偏光素子、ミラーの調整まで確認は取れ、作動排気部の調整が終わり次第測定に入れる状況にある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
円偏光照射によるスピン注入やスピン流生成が原子層物質で観測できることを立て続けに報告でき、物質最表面での光と電子の相互作用について示唆的であった可能性に対し報告を重ねることもできた上、未定式であったPISHEの定式化の提案ができたことは当該分野において大きな進展であったと言える。中赤外光導入については遅れてはいるが、それを補って余りある成果を挙げられた。現在稼働している近赤外光に加え中赤外光が導入されれば、照射光の波長がパラメータとして加わり物質表面におけるスピンのさらなる詳細な調査が可能になると期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度の実績である新奇なPISHEの振る舞いは観測物質特有のものではなく、他のラシュバ系やトポロジカル絶縁体などでも観測できる可能性がある。他物質での観測により提唱した定式化の裏付けは成されるため、トポロジカル絶縁体等でこれの観測を目指す。また、超高真空その場測定のできる本系の利点として、同一試料上で成長と測定のサイクルを回すことができるため、例えばトポロジカル絶縁体において表面と裏面の干渉が消え表面状態の出現によりヘリシティ依存光電流が増大するなどの振る舞いを同一試料で観測できることが期待できる。これは既存の近赤外光でも観測可能であるが、表面状態のスピン分裂エネルギー幅に一致した中赤外光を用いることでより鮮明な増大を観測できると見込まれる。
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