研究課題/領域番号 |
23KJ0504
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分34010:無機・錯体化学関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
武富 大空 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
1,800千円 (直接経費: 1,800千円)
2024年度: 900千円 (直接経費: 900千円)
2023年度: 900千円 (直接経費: 900千円)
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キーワード | 多孔性金属錯体 / 変性タンパク質 / 分離 / 精製 / ナノ細孔 |
研究開始時の研究の概要 |
新生タンパク質はリボソームから放出される際にフォールディングし、特定の高次構造を形成する。本研究ではこの原理を利用して、金属有機構造体(MOF)を用いたタンパク質のフォールディングを行う。1次元細孔を有するMOFに変性したタンパク質を取り込み、タンパク質鎖を引き伸ばす。その後タンパク質をMOFから放出しフォールディングを促す。本システムではMOF細孔内で高密度タンパク質状態を達成しつつ、細孔壁がタンパク質同士の相互作用を排除している点で従来のフォールディング手法と異なる。本研究計画が達成されればタンパク質を安価かつ大量に生産できるようになり、酵素産業や医薬品業界に大きなインパクトをもたらせる。
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研究実績の概要 |
現在、変性タンパク質の分離にはサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)が用いられているが、天然タンパク質と変性タンパク質のサイズ差は小さく、分離は依然困難である。そこで本研究では均一なナノサイズの空間を有する多孔性金属錯体(Metal-Organic Framework: MOF)を吸着材として用いた、天然体と変性体を厳密に認識する新たな分離メカニズムの開発を目的とした。 始めに細孔サイズが0.9 nm、1.5 nm、2.5 nmに制御された同じトポロジー構造を有するMOFを設計した。小細孔のMOFには天然体と変性体の両方が吸着しない一方、大細孔を有するMOFには両方とも吸着して、有意な選択性は見られなかった。中間サイズのMOFを用いたところ、天然体はわずか0.05 g/gしか吸着しない一方、変性体は0.40 g/gも吸着することが示された。天然構造のタンパク質はMOFの細孔窓よりも大きいため立体障害により吸着しないのに対し、一本鎖状態に変性したポリペプチド鎖はMOFの細孔窓よりも細いため、MOF細孔内へ浸入し吸着した。さらにタンパク質の種類、S-S結合の有無の状態を検討した結果、アンフォールディング状態かつ還元状態の変性タンパク質のみMOF細孔内へと浸入できることを見出した。 またこの吸着原理を元に、天然/変性混合タンパク質から変性体のみを吸着する実験を行った。上澄み液の濃度と活性から天然体の純度を求めた結果、精製前は23%であったのに対し、精製後は99%以上まで純度が回復した。以上より、生体高分子のコンフォメーションを認識する新たな分離手法を実現することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、変性タンパク質がMOFの孔の中へ自発的に浸入することを発見した。加えてタンパク質がMOFに浸入するための条件を解明できた。さらに適切な細孔サイズのMOFを用いることで、天然タンパク質と変性タンパク質の分離において高い選択性を示すことを見出し、タンパク質の高純度精製を達成した。本研究成果は従来のSEC法と比較して分子の僅かな違いを明確に認識するための強力なツールであり、変性体のみを完全に取り除くことが可能である。現在、本成果を学術論文として投稿している。以上の理由から研究は順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究では、MOFの粉末を溶液に直接添加することにより変性タンパク質を除去した。本技術を社会実装可能な技術へと発展させるために、MOF粒子を固定相として利用する液体クロマトグラフィー(MOFカラムクロマトグラフィー)へと展開する。現在のMOFカラムで得られる分離性能は、市販されているシリカ系カラムと比較して理論段数が著しく低いという問題があり、これはMOF粒子のモルフォロジーや粒子サイズが不均一であることに由来している。次年度はChristian Serre研と協力して、MOFの粒子形状を制御する手法を開発し、得られたMOFをカラムにパッキングすることでMOFカラムの飛躍的な分離性能の向上を目指す。
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