研究課題/領域番号 |
23KJ0523
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分40020:木質科学関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
伊藤 智樹 東京大学, 農学生命科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,000千円 (直接経費: 2,000千円)
2024年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
2023年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
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キーワード | セルロースナノファイバー / 原子間力顕微鏡 / 画像解析 / 欠陥構造 |
研究開始時の研究の概要 |
セルロースナノファイバー (CNF) は、樹木の細胞壁(パルプ)を化学・機械処理によりナノレベルまで解きほぐして得られる繊維状の材料である。CNFは優れた熱的・機械的特性を持ち、様々な用途探索が進められてきた。しかし調製段階で、CNFの表面には多くの欠陥構造が発生する。CNFの優れた特性を最大限活用するため、本研究ではCNFの欠陥構造を抑制する調製プロセスを確立し、CNFの機能性を最大限生かした理想的な材料を作製する。
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研究実績の概要 |
セルロースナノファイバー(CNF)は木材の細胞壁(パルプ)を化学・機械処理によってナノレベルにまで解きほぐすことで得られる繊維材料である。CNFは優れた高強度、高弾性率、低熱膨張率などの優れた特性を有していることから、低炭素社会における高機能材料として期待されている。CNFの長軸方向には凹状の欠陥構造が存在することが知られていたが、その詳細な形状や分布、発生メカニズムは明らかにされていなかった。材料の欠陥構造は一般に強度の低下などに繋がるため、CNFの優れた特性を活用するためには、欠陥の発生を抑制できる調製プロセスの確立が必要である。前年度までの研究で私は、異なる機械的な解きほぐし度合いのCNFを原子間力顕微鏡画像(AFM)で観察し画像解析することで、CNFの欠陥構造の量・分布・形状を定量的に明らかにした。またその結果から、CNFの欠陥構造は機械処理でパルプを解きほぐす際に、パルプ中で一部結晶化しているCNF同士の界面から分子鎖が剥離することで発生するというメカニズムを提案した。そこで本年度は、提案したメカニズムに基づき、CNFの欠陥発生を抑制できる調製プロセスの確立に取り組んだ。 欠陥の発生を抑制するために、パルプ中のCNF表面を保護する原料、およびCNF表面のセルロース分子の分解を抑制する化学処理条件の二点に注目した。原料には、針葉樹由来のホロセルロースを使用した。ホロセルロース中でCNFはヘミセルロースと呼ばれる多糖ポリマーによって表面が覆われており、結晶化が抑制されていることが先行研究で報告されている。従って、ホロセルロースを原料として使用することでCNFの表面を保護し、機械処理の際のセルロース分子鎖の剥離を防止できると着想した。また化学処理は、弱酸性条件下でのTEMPO酸化を用いることで、反応中間体であるアルデヒド基に由来するセルロースの分解反応を抑制した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
原料と化学処理条件の影響を調べるため、ホロセルロースおよび針葉樹漂白クラフトパルプをpH 4.8およびpH 10でTEMPO酸化し、計4種のCNFを調製した。各CNFをAFMで観察した結果、平均太さに大きな差は見られなかったが、ホロセルロースをpH 4.8でTEMPO酸化したCNF(Holo4.8)は最も狭い高さ分布を示した。これにより、Holo4.8が最も均一な太さを持つCNFであることが示唆された。また、Holo4.8ではCNFの捩れに起因すると考えられる周期的な高さ変化が頻繁に観察された。これは、CNF表面の凹状の欠陥が少なく、高さプロファイルが乱されていないためだと考えられる。以上のAFM観察結果や分子量測定、フィルム強度の測定などから、Holo4.8が4種のCNF中で最も欠陥が少ないCNFであり、ホロセルロースの使用と弱酸性条件でのTEMPO酸化によってCNFの欠陥発生を抑制できたと結論した。 以上、当初の計画通り欠陥の少ないCNFの調整に成功し、欠陥構造とCNFのねじれ挙動との関係という新たな知見を得たことから、研究は概ね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画に従い、欠陥の少ないCNFで作成したフィルムの機械的および熱的物性を測定し、その優位性を実証する。測定項目としては、(1) 引張試験機を用いた強度と弾性率、(2) 熱機械分析による熱膨張率、(3) 温度波分析法による熱拡散率から熱伝導率を算出することが計画されている。 また、欠陥構造とCNFのねじれ挙動の関係については、その分子論的メカニズムの解明を進める予定である。CNFのねじれ挙動は、セルロース分子内・分子間の水素結合に由来することが先行研究で報告されている。もし欠陥構造がCNFのねじれ挙動に影響している場合、この水素結合を詳細に解析する必要がある。ただし、現在主に欠陥構造の解析に使用されているAFMでは水素結合を可視化することはできないため、分子動力学シミュレーション(MD)を利用して、欠陥構造を導入したCNFモデルに基づき、水中および気中でのCNFのねじれ挙動の分子メカニズムを解析する。所属研究室では欠陥のないCNFに化学修飾基を導入したモデルのねじれ挙動に関する論文を発表しており、MDによる解析の環境はすでに整っている。
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