研究実績の概要 |
臨床で広く用いられているオピオイド鎮痛薬の標的であるミューオピオイド受容体(MOR)について、そのリガンド結合部位とは異なる部位に結合してMORのシグナル伝達活性をアゴニスト単独で結合したときよりも高める化合物をアロステリックモジュレーターと呼ぶ。本研究ではアロステリックモジュレーターによってMORのシグナル伝達活性が上昇する機構を明らかにすることを目的として、クライオ電子顕微鏡および溶液核磁気共鳴法(NMR)を用いた構造解析を行った。アロステリックモジュレーターBMS-986122結合状態においてMORとGタンパク質、構造安定抗体scfv16の複合体についてクライオ電子顕微鏡解析を行いその構造決定に成功した。決定した構造ではBMS-986122由来の密度が観測され、その結合部位が膜貫通ヘリックス3,4,5に囲まれるポケット上にあることが示された。また、その構造からBMS-986122の結合に伴ってMORの主鎖構造に大きな変化はないものの、Gタンパク質共役型受容体に広く保存される残基であるR167,Y254の側鎖の配向が変化していることが示唆された。これらの残機間の相互作用の変化がMORのシグナル伝達活性の上昇に寄与しているかを調べるため、両残基の近傍に存在するM257に由来するNMRシグナルの解析を行った結果、BMS-986122の結合に伴い、NMRの静磁場依存的にM257由来NMRシグナルの線幅が増大したことから、BMS-986122の結合によりM257側鎖の運動性が抑制されたことが示された。以上よりM257はR167,Y254近傍に存在することから、BMS-986122の結合によりR167とY254の相互作用が強まることで、MORの構造がより活性の高い状態へと安定化されることで、MORのシグナル伝達活性が上昇することが示唆された。
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