研究課題/領域番号 |
23KJ0578
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分33020:有機合成化学関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
渡邉 祐基 東京大学, 薬学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,000千円 (直接経費: 2,000千円)
2024年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
2023年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
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キーワード | 収束的合成戦略 / ラジカル反応 / 複雑天然物の骨格構築 |
研究開始時の研究の概要 |
トウセンダニン(1)とフィラントイドA (2)は、それぞれ抗ボツリヌス毒素活性、がん細胞毒性を有するリモノイドである。どちらも炭素骨格上に8 個以上の酸素官能基、フラン環やC8 位炭素鎖、さらに13 連続以上の不斉中心を有する極めて複雑な構造を持ち、全合成例は全く存在しない。1, 2 は興味深い生物活性を有し創薬科学への展開が期待される。しかし、その構造の複雑さが生物活性に重要な構造要因の解明を阻んでいる。これを実現し得る本全合成研究は、合成困難な複雑ステロイド様天然物に対し新たな合成戦略を提示し、1, 2 を基盤とした創薬研究の道を切り開く重要な基礎研究である。
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研究実績の概要 |
トウセンダニン (1)は、センダン科の植物などから単離されたリモノイドである。本天然物は、6/6/6/5員環(A/B/C/D環)の4環性ステロイド様骨格を有し、AB環とBC環はトランス縮環、CD環はシス縮環している。そして、8つの酸素官能基、C17位α配向のフラン環、さらに、4つの第4級炭素を含む13個の連続不斉中心を有する。この極めて複雑な構造のため、全合成例は報告されていない。一方、申請者はこれまでに、AB環フラグメントとD環フラグメントを連結し、C環を構築する、という収束的合成戦略に基づき、ステロイド天然物であるバトラコトキシンの全合成を達成した。申請者は、自身が確立した本手法を応用することで効率的に1を全合成できると考え、その全合成研究に着手した。 まず、ビニルヨージドを有するシス縮環したAB環フラグメントと、ビニルボロン酸を導入したD環フラグメントを得た。続いて、AB環とD環の連結を行った。申請者は、酸化銀を用いた鈴木宮浦カップリング反応で、所望の3環性化合物を高収率で得た。その後、ラジカル反応を用いてC環を構築した。その際、天然物に存在するC15位酸素官能基を一挙に導入した四環性化合物を得ることに成功した。これによりAB環の3次元構造を活用した立体制御に基づく炭素炭素結合形成を実現し、1の四環性骨格を構築した。得られた化合物は、さらなる官能基化の足がかりとなる官能基を有する重要な合成中間体である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度は、トウセンダニンの全合成に向け、その効率的な骨格構築法の確立に取り組んだ。これを実現する上で、まず複数のAB環を設計し、その構造を最適化するとともに量的供給を実現した。続いて、AB環とD環の連結に取り組んだ。本反応は、D環の四級炭素に隣接した位置の炭素を分子間で結合させる、挑戦的な反応である。申請者は、酸化銀を用いた鈴木宮浦カップリング反応を適用し、所望の3環性化合物を高収率で得る条件を確立した。さらに、ラジカルを用いたC環構築を検討した。その結果、C9位に所望の立体を有するC環が構築できた。さらに、天然物に存在するC15位酸素官能基を一挙に導入した四環性化合物を得ることに成功した。これによりAB環の3次元構造を活用した立体制御に基づく炭素炭素結合形成を実現し、1の四環性骨格の構築を完了した。以上の成果から、本年度は当初の目標を達成したと言える。
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今後の研究の推進方策 |
トウセンダニンの全合成に向けた残る課題は、C8位メチル化とトランスAB環の構築である。BC環核間位のC8位の構築は非常に挑戦的な課題である。申請者は、分子内反応を利用することでC8位メチル化を実現できると予想した。2023年度合成した四環性化合物に対し、適切な順番で官能基変換を行い、これを実現する。その後、トランスAB環への変換を含む官能基化を行い、トウセンダニンの全合成を達成する。その後、確立した合成法を利用してフィラントイドAの全合成を行う。これにより、トウセンダニン, フィラントイドAのような4環性骨格を有する複雑天然物の統一的な合成法となり得る新たな合成戦略を提示する。
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