研究課題/領域番号 |
23KJ0600
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分50010:腫瘍生物学関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
野崎 啓史 東京大学, 薬学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,800千円 (直接経費: 2,800千円)
2024年度: 1,400千円 (直接経費: 1,400千円)
2023年度: 1,400千円 (直接経費: 1,400千円)
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キーワード | p53 / 翻訳後修飾 / DNA損傷 / アポトーシス |
研究開始時の研究の概要 |
p53は多くのがん患者で変異が生じている最も代表的ながん抑制遺伝子である。p53はリン酸化やメチル化などのさまざまな翻訳後修飾によって機能制御されることが知られてきたが、未だ多くの謎が残されている。本研究では、p53がこれまで細胞外タンパク質のみが受けると考えられてきた翻訳後修飾を受けることを見出してきた。そこで、この修飾がどのようにしてp53に施されるのかについて解明し、さらにはどのような機構でp53の機能を制御するのか明らかにすることを目指す。これにより、p53の新規翻訳後修飾による新たながん化抑制機構を見出したい。
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研究実績の概要 |
p53は、多くのがん患者で変異が生じている最も代表的ながん抑制遺伝子である。p53は、細胞にDNA損傷などのストレスがかかった時に、細胞周期の停止や細胞死などを誘導することで適切な細胞応答に貢献する。このようなp53の機能は、リン酸化やメチル化などのさまざまなタンパク質の翻訳後修飾によって制御されることが知られてきたが、その全容については未だ多くの謎が残されている。本年度までの研究において、p53が、小胞体膜に局在すると考えられている酵素によって翻訳後修飾を受けることを見出してきた。 この新規修飾を受けたp53がいかなる機能を制御するのか検証するために、本修飾を担う酵素を欠損させた細胞を作成し、DNA損傷刺激に対する細胞応答を検討した。その結果、本酵素欠損細胞では、DNA損傷刺激下においてp53依存的な細胞死が亢進していることが示唆された。そこで酵素欠損細胞における細胞死亢進のメカニズムを検証するために、DNA損傷刺激時の野生型細胞と本酵素欠損細胞の遺伝子発現を網羅的に比較したところ、意外にも細胞死関連遺伝子の発現には大きな差がないことがわかった。これらの結果より、本酵素欠損細胞では、DNA損傷刺激後にp53の転写活性化とは別のメカニズムによる細胞死が亢進している可能性が示唆され、現在はさまざまな視点から検証を進めている。 また、小胞体膜に局在する本酵素がp53のような核内タンパク質を修飾する機構について、本酵素の細胞内局在を種々の手法を用いて検討した。その結果、本酵素が小胞体膜だけでなく核内膜にも局在することが示唆された。以上の結果は、がん抑制タンパク質p53の新たな制御メカニズムを明らかにするとともに、p53に限らず今回見出した新規修飾が幅広く核内タンパク質の機能を制御する可能性を示唆するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度までの研究において、p53が、小胞体膜に局在する酵素によって担われる、これまで細胞外タンパク質のみが受けると考えられてきた翻訳後修飾を受けることを見出してきた。 本年度の研究においては、この新規修飾がp53のいかなる機能を制御するのか検証を進めた。本修飾を担う酵素を欠損させた細胞を作成し、DNA損傷刺激に対する細胞応答を検討した。その結果、本酵素欠損細胞では、DNA損傷刺激後のp53依存的な細胞死が亢進し、細胞の生存率が減少することが示唆された。そこで、本酵素欠損細胞における細胞死亢進のメカニズムを検証するために、DNA損傷刺激下における野生型細胞と本酵素欠損細胞の遺伝子発現を網羅的に比較したところ、意外にも細胞死関連遺伝子の遺伝子発現には大きな差がないことがわかった。以上より、本研究で見出したp53の新規修飾が転写活性化に依存しない細胞死を抑制している可能性が示唆され、p53の新たな制御メカニズムに迫る結果を得ることができた。 また、小胞体膜に局在する酵素がp53のような核内タンパク質を修飾する機構について、本酵素の細胞内局在を種々の手法(蛍光タンパク質を用いたレポーターシステムや近接ライゲーションなど)を用いて検討した。その結果、本酵素が小胞体膜だけでなく核内膜にも局在することが示唆され、p53に限らず今回見出した新規修飾が幅広く核内タンパク質の機能を制御する可能性が見出された。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究において、p53の新規修飾が転写活性化とは別のメカニズムで細胞死を制御することが示唆された。現在、p53の転写活性化に依存しない細胞死を評価する系を構築しつつあり、今後はその最適化を行うことで実際に本酵素欠損細胞においてp53による転写非依存的な細胞死が亢進しているのか検証する。またp53の本新規修飾による細胞死制御について分子メカニズムの解明を試みる。p53は様々な結合因子により機能が制御されていることが知られている。そこで本酵素の欠損によりp53のコファクターが変化するのか調べるために、質量分析法を利用してp53の結合因子を網羅的に同定・比較し、細胞死の亢進に寄与しうる結合因子の同定を行う。さらには、p53の本新規修飾による細胞死制御について個体レベルでの解析のため、p53の本新規修飾を変化させたマウスの作成や生体での腫瘍形成を評価する系の導入を行う。 本年度の研究において、新規修飾を担う酵素が意外にも核内膜にも局在することを示唆する結果を得た。そこで最新のタンパク質ラベリングシステムと電子顕微鏡を組み合わせた系などを用いて、本酵素の核膜局在について更なる詳細な検証を試みる。さらに、核膜に局在する本酵素のみを特異的に阻害するシステムを開発し、DNA損傷刺激時のp53の機能制御をモデルに本酵素の核膜局在の必要性を明らかにする。また、本酵素がp53以外にも幅広く核内タンパク質を機能制御している可能性の検証を行うために、本酵素によって導入される修飾を認識する抗体を用いた免疫沈降-質量分析を行うことで、核内ターゲット候補を網羅的に調べる。
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