研究課題/領域番号 |
23KJ0601
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分90120:生体材料学関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
乗松 純平 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
1,800千円 (直接経費: 1,800千円)
2024年度: 900千円 (直接経費: 900千円)
2023年度: 900千円 (直接経費: 900千円)
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キーワード | mRNA / 薬物送達システム / 中枢神経系疾患 / 高分子ミセル |
研究開始時の研究の概要 |
中枢神経系(CNS)疾患の治療において、神経細胞の突起進展やシナプス形成を促進する脳由来神経栄養因子(BDNF)を用いた「脳機能の再生」が注目を集めているが、血液脳関門(BBB)の存在により血中から脳への移行は大きく制限されている。タンパク質の設計図であるmRNAを脳内へ送達できればBDNFを大量かつ持続的に産生することが可能となるが、BBB低透過性に加え、mRNAの生体内不安定性により、全身投与を介した脳内へのmRNA送達は極めて困難である。本研究では、BDNFをコードするmRNAを安定的に内包し脳へ効率的に送達可能な高分子ミセルを精密設計し、CNS疾患の革新的治療法確立を目指す。
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研究実績の概要 |
mRNAは様々な疾患に対する有望な治療薬として近年注目を集めているが、生体内での不安定性や細胞膜の低透過性等に起因して、mRNAの全身投与による疾患治療は困難な現状である。本研究では血中を介した疾患部位への効率的なmRNA送達を目的として、高分子ミセルをベースとしたmRNA送達システムの構築を行なっている。従来、核酸医薬をミセルに封入する際にはPEG-poly(L-lysine)などアミノ基をカチオン性官能基として持つブロック共重合体が用いられてきたが、全身投与したmRNAを生体内酵素による分解から保護するには安定性が不十分であった。そこで本研究では、ブロック共重合体のカチオン性官能基を従来のアミノ基から疎水性ホスホニウム基(HP基)に置換することでその安定化効果を検証した。HP基への置換によって、様々な長さのmRNAをミセルコアに密に封入でき、生体内環境におけるmRNA安定性と細胞内タンパク質発現を大幅に向上させられることをin vitro, in vivoレベルで明らかにした。また、分子動力学シミュレーションと熱力学的解析を用いてポリマーとmRNAの相互作用を解析することで、HP基によるmRNA complex安定化のメカニズム検証も実施した。続いて、効率的な脳へのmRNA送達を目指して、上記で構築したmRNAミセルの表面に脳血管内皮細胞を標的とした抗体フラグメントを修飾した。ミセル表面へのリガンド修飾量を精密に制御することで、標的receptorを高発現する細胞へのmRNA内在化及びタンパク質発現が促進されることを確認した。このリガンド修飾mRNAミセルをマウスに静脈内投与することで、リガンド未修飾の場合と比較して脳内へのmRNA集積量が有意に増加することを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高分子ミセルを構成するブロック共重合体の構造最適化を行うことで、全身投与したmRNAのbioavailabilityを有意に向上させ、生体内組織でのタンパク質発現を促進できることを明らかにした。本研究ではmRNA治療薬の中枢神経系(CNS)疾患への適用を目標としているが、ここで構築した新規高分子ミセルの表面に適切なリガンド修飾を施すことで、実際に脳内へのmRNA集積を促進できることをin vivoで確認した。mRNAの全身投与により脳内で任意の治療用蛋白質を産生可能なプラットフォームを構築できれば、アンメットメディカルニーズの高い様々なCNS疾患の治療法確立につながることが期待される。
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今後の研究の推進方策 |
現在までにリガンド修飾高分子ミセルを精密設計し、脳へのmRNA送達を促進できることを確認した。今後は脳内へ送達されたmRNAの局所分布を共焦点レーザー顕微鏡を用いた脳切片の観察により詳細に評価する。脳以外の臓器へのmRNA分布も併せて評価する。また、脳内でのタンパク質産生効率を評価し、必要に応じて細胞内でのタンパク質発現効率向上に向けた高分子ミセルの更なる構造最適化を実施する。具体的には、ブロック共重合体に低pHに応答してプロトン化する構造等を組み入れることで、細胞にエンドサイトーシスで取り込まれた後、エンドソームから積極的に脱出し細胞質にmRNAを効率良く放出可能な高分子ミセル構築を目指す。
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