研究課題/領域番号 |
23KJ0607
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分29010:応用物性関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
清水 祐樹 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,000千円 (直接経費: 2,000千円)
2024年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
2023年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
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キーワード | マグノニクス / 非線形ダイナミクス / スピントロニクス |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は磁化ダイナミクスの密度行列全体を直接決めることができる、世界初の磁化の状態トモグラフィ法を開発し、従来難しかった磁化ダイナミクスにおける非線形ゆらぎ効果や極低温度量子もつれ効果の研究を系統的に行う。従来では、磁化を古典ベクトルとして扱う極端な単純化を行っており、磁気ダイナミクスの高次ゆらぎを調べる手法の欠如がボトルネックであった。本研究では、従来切り捨てられてきた磁化の振幅位相間の相関を用いることで、磁化の高次ゆらぎを測定可能な状態トモグラフィ測定を開発し、精密非線形励起や極低温度での磁気励起の実験を行うことで非線形効果や量子効果による高次ゆらぎ現象を開拓する。
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研究実績の概要 |
1年目の目標に掲げた「ナノ磁性体中のマグノンに対する状態トモグラフィ法の開拓」に成功し、2年目の目標である「マグノン非線形ゆらぎの観測」に対してもすでに実験を進めている。 本研究は従来見過ごされてきた磁化の振幅・位相間の相関を用いることで、これまで欠如していたマグノン高次相関を調べる手法(磁化状態トモグラフィ法)を開発し、新たなスピントロニクス物性研究の領域を切り開くものである。その第一目標として本研究の根幹を担う測定法の開発(「ナノ磁性体中のマグノンに対する状態トモグラフィ法の開拓」)を掲げた。磁化ダイナミクスの電気的抽出を行うACスピンポンピングとボックスカー積分器を用いた高速ロックイン測定を行うことで、時間・周波数についても高精度に振幅・位相間の相関を取得する方法を確立した。さらに磁化の非線形励起を行うことで緩和時の位相情報が桁違いにのびるpersistent coherence現象に本手法を適応することで、その背景物理の解明を行った。本結果は査読付き論文として出版された[1]。 また、2年目の目標として、開発した測定手法を用いた「マグノン非線形ゆらぎの観測」を掲げた。磁化を非線形励起する際の時間発達過程では、磁化の非線形相互作用に由来した、磁化の非線形相関生成の可能性がある。そこで、時間分解測定可能なように拡張したトモグラフィ測定系を用いて、磁化のゆらぎを測定した。得られたゆらぎに対し、確率微分方程式に基づいたマグノンの位相空間上の運動方程式であるLangevin方程式を用いた数値計算により、その背景物理の解明を行っている。 [1] T Makiuchi, T Hioki, H Shimizu, et al., Persistent magnetic coherence in magnets. Nat. Mater. (2024)
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究テーマの根幹を担う磁化状態トモグラフィ法を完成させ、これを用いてマグノンの非線形ゆらぎを観測し、国際学会で発表したことから上記の評価とした。 本研究テーマはマグノン状態の密度行列を直接測定できる新たな磁化状態トモグラフィ法を開発し、高次ゆらぎ磁気ダイナミクスの系統測定を行うことで多数の非自明なマグノン状態を同定することである。特別研究員はボックスカー積分器を用いた測定系を考案・実装することで周波数領域のみならず、時間領域についても高精度な磁化状態トモグラフィを完成させた。これにより初年度に掲げた研究計画を達成した。 さらに特別研究員は本研究テーマの展開として、反磁場による非線形効果が駆動するパラメトリック励起に注目した。特別研究員はこの現象を用いると片方の正準共役量方向のマグノンゆらぎのみが増大する非線形マグノンゆらぎ状態が形成されることを理論的に示し、開発された磁化状態トモグラフィ法を用いて実験的な観測を試みた。この結果、理論的に示された非線形マグノンゆらぎのみならず、さらにパラメトリック励起より高次の非線形性が作る非自明なマグノン状態を観測した。この研究成果は国際会議IEEE Intermagにて特別研究員より発表された。 以上より、進展の評価を上記のものとした。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究方針として、完成した測定系を用いたマグノンのスクイーズド状態観測を目指す。 本研究は従来見過ごされてきた磁化の振幅・位相間の相関を用いることで、これまで欠如していたマグノン高次相関を調べる手法(磁化状態トモグラフィ法)を開発し、新たなスピントロニクス物性研究の領域を切り開くものである。現在までに磁化状態トモグラフィ法は完成している。そこで磁性体の一般的な非線形現象であるパラメトリック励起に着目した。磁性体では静磁場と平行に交流磁場を印加することで実現される。パラメトリック励起非線形性は光や超伝導でスクイーズ度状態という片方の正準共役量が真空ゆらぎ以下になる状態が形成される。磁性体においてもその現象が観測されるはずであり、磁化状態トモグラフィ法を用いて初めてその観測を行う。
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