研究課題/領域番号 |
23KJ0686
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分42020:獣医学関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
齋藤 凌 東京大学, 農学生命科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,000千円 (直接経費: 3,000千円)
2025年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
2024年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
2023年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
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キーワード | 犬 / 猫 / 髄膜腫 / 末梢神経鞘腫瘍 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、犬と猫の髄膜腫の病理組織学的な形態の差異に着目し、これまで未解明であった髄膜腫の組織形態の多様性について、発生起源という新たな観点からの説明を試みる。動物種間における組織形態の差異に着目した研究はこれまでなされておらず、発生起源の差異についても検討されていないため、本研究は髄膜腫の形成機序の解明において、極めて重要な役割を担うことが可能である。
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研究実績の概要 |
髄膜腫の発生機序や悪性化に関わる分子としての血小板成長因子(PDGF)とその受容体の発現/働きに関する研究を行った。ヒトではPDGFBのオートクリン/パラクリンが髄膜腫の発生や悪性化に関与するとされるが、犬ではPDGFAが広範に発現しており、同分子が髄膜腫の発生/悪性化に寄与するものと考えられる。さらに、犬の髄膜腫では高分子量のPDGFAが発現し、本分子がオートクリン/パラクリンにて作用することが示唆される。それに対し、猫ではPDGFが発現しておらず、概ね良性の挙動を呈する要因として同分子の欠如が推測される。また、これらの受容体については、犬、猫ともに多くの症例にて発現が認められた。本研究は、ヒトと犬の髄膜腫がしばしば悪性の挙動を呈するのに対し、猫では概ね良性である要因としてPDGF分子発現の差異が存在することを示唆するのみならず、再発病変や手術が困難である症例に対する薬物療法における治療標的としての同分子の重要性を示すものである。あわせて、猫の脊髄腫瘍にてしばしば鑑別が困難となる髄膜腫と末梢神経鞘腫瘍の鑑別に関する研究を行った。免疫組織化学により、髄膜腫ではE-cadherinが発現し、末梢神経鞘腫瘍ではGFAP、S100の発現を認めた。これらの腫瘍は病理組織学的に類似した特徴を有するが、髄膜腫の予後が良好であるのに対して、末梢神経鞘腫瘍は髄膜腫と比較して生存期間が有意に短い。そのため、これらの腫瘍の鑑別は治療方針や生存期間の予測において重要な意義を有する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、犬および猫の髄膜腫の発生過程やその起源を課題としている。現在までの進捗状況として、これらの発生に関わる分子として、血小板成長因子(PDGF)を明らかにした。本分子はヒトの髄膜腫でも発生に関与するとされるが、犬では異なるアイソフォームが発現し、猫では発現しないことが明らかになり、これらの種における腫瘍発生や悪性転化のメカニズムが異なる可能性を示した。これは、犬では高悪性、ヒトで中程度、猫では良性の挙動をとるという髄膜腫が有する生物学的挙動の動物種差の一因と考えられる。 また、猫の髄膜腫と末梢神経鞘腫瘍の鑑別についても、病理学的診断上において有意義であるだけでなく、類似の形態を有する両腫瘍の鑑別により、その発生過程の差異を検討することが可能となる。これにより、猫の髄膜腫が良性の挙動を有する要因について、同種の異なる腫瘍間で比較することによって探索することが可能となる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究では、髄膜腫の分子発現に焦点を当て、良悪や動物種間での比較を行った。今後は、特に猫の髄膜腫について、これまで明らかにされていない遺伝学的背景を探索することによって、その発生過程を明らかにする。具体的には、ヒトの髄膜腫で最も普遍的に認められるNF2遺伝子の変異について探索する。本遺伝子変異は、線維型や移行型に分類される髄膜腫にて観察され、これらの組織型は猫で頻繁に診断されるものである。したがって、本遺伝子変異の探索により、ヒトと猫の髄膜腫の類似性が認められるものと考える。
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