研究課題/領域番号 |
23KJ0697
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分15010:素粒子、原子核、宇宙線および宇宙物理に関連する理論
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
洪 木子 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,000千円 (直接経費: 3,000千円)
2025年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
2024年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
2023年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
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キーワード | バリオン非対称生成 / 場の方程式の古典解 / アインシュタイン・カルタン重力 / インフレーション |
研究開始時の研究の概要 |
宇宙に銀河や恒星が存在できるのは、初期宇宙に粒子が反粒子より少し多く生成したからである。そのメカリズムはバリオン非対称生成といい、宇宙論の解かされていない謎の一つである。今まで多くのシナリオが提案されたが、素粒子標準模型を超える新しい物理が必要である。私の研究は、既存の素粒子物理の枠組み内でバリオン非対称生成を説明する可能性を探るものであり、既存の素粒子物理でバリオン非対称生成の謎を解くことを目標としている。
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研究実績の概要 |
スファレロン脱結合の際の非平衡過程についての研究はほとんど行われていなかったが、それを用いてバリオン非対称生成を起こすシナリオが近年、定性的に提案された(Kharzeev et al., 2020)。同論文で、標準模型内からCPの破れを十分に拾うメカニズムが提案された。しかし、その論文ではスファレロンによるwash-out効果を考慮していなかった。私はその効果を考慮して再解析したところ、十分なバリオン数が生成できないことを見出した。そのことを指摘し、論文にまとめ、Physical Review Dにアクセプトされた。 初期宇宙の現象を考察するとき、場の配位の鞍点解が重要になる場合がある。例えば、vacuum decayのdecay rateを計算するとき、バウンス解の値が必要である。また、バリオン非対称生成のシナリオ、例えば、leptogenesisや電弱baryogenesisの評価をする際に、スファレロン解が重要である。場の配位の鞍点解を数値的に計算する際は、trivialな解に落ちる場合がある。そこで、私は場の配位の鞍点解を特定する新しい数値手法を研究し、それを用いてバウンス解およびスファレロン解を解いた。その結果を論文にまとめて、Physics Letters Bにアクセプトされた。 Metric formalismにおいて、f(R)理論では、gravitonの2自由度の上、scalaronという伝搬するスカラー場の自由度がある。一方、アインシュタイン・カルタン(EC)重力においてのf(R)理論は一般的に新たな自由度が存在しないことが知られている。しかし、EC重力にNieh-Yan項およびHolst項を導入することにより、新たな自由度が出て、Starobinsky inflationおよびその変形が実現できる。それを調べ、論文にまとめて、今のところ査読中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画は、スファレロン脱結合の際の非平衡過程を用いてバリオン非対称生成を起こす定性的なシナリオ(Kharzeev et al., 2020)を定式化し、十分なバリオン数が生成できるかどうかを評価することであった。研究を進め、その論文ではスファレロンによるwash-out効果を考慮していなかったことに気づいた。その効果を考慮したら、十分なバリオン数が生成できないことがわかった。それを指摘し、論文にまとめ、Physical Review Dにアクセプトされた。 実験的検証可能なバリオン非対称生成というテーマをめぐり、上記とは別ないくつかの方向に同時に研究を進めている。Leptogenesisや電弱baryogenesisの評価をする際に、スファレロン解という鞍点解が重要である。場の配位の鞍点解を数値的に計算する際は、trivialな解に落ちる場合がある。場の配位の鞍点解の新しい数値手法を研究し、それを用いていくつかの鞍点解を解いた。その結果を論文にまとめて、Physics Letters Bにアクセプトされた。また、アインシュタイン・カルタン重力にNieh-Yan項およびHolst項を導入することにより、新たな自由度が出て、Starobinsky inflationおよびその変形が実現できることを論文にまとめて、今のところ査読中である。Spin connectionにより、トーションの軸性成分とフェルミオンの軸性ベクトルカレントが結合し、すなわち、scalaronと軸性ベクトルカレントが結合して、同シナリオでの宇宙の再加熱およびバリオン非対称生成が検討できる。これは今後の課題となる。最後に、電弱baryogenesisの解析手法には、二つの流儀があり、桁違いの結果が出る。その中の一つの方法を改善する研究を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
次の年度では、バリオン非対称生成の研究について二つの方向性に従って進める。 曲がった時空で任意のスピンの場を記述するため、Poincare群をゲージ化し、vierbeinとspin connectionを導入する。トーションの自由度が自然に出て、アインシュタイン・カルタン(EC)重力という枠組みで重力を記述できる。EC重力においてのf(R)理論は一般的に新たな自由度が存在しないと知られている。しかし、EC重力にNieh-Yan項およびHolst項を導入することにより、新たな自由度が出て、Starobinsky inflationおよびその変形が実現できる。Spin connectionにより、トーションの軸性成分とフェルミオンの軸性ベクトルカレントが結合している。それによって、scalaronと軸性ベクトルカレントが結合して、その項が存在するおかげで、同シナリオでの宇宙の再加熱およびバリオン非対称生成が検討できる。素粒子標準模型以外の新しいセクターを導入する必要がない。これは今後の課題となる。 Electroweak Baryogenesisの非平衡の場の理論による定式化に、二通りのアプローチがある。VEV insertion approximation (VIA)という方法では、CPの破れが存在する際のフェルミオンのハイパーチャージカレントが保存しないことに注目し、それを評価する。一方、semiclassical forceという方法では、WKB近似のもとで、CPの破れがボルツマン方程式に半古典的な力として現れることを観察し、それによってバリオン数を評価する。この二つの方法の結果は桁違いであり、どちらのほうがより適切かはまだ定説がない。VIA法の解析手法を改善し、semiclassical forceの結果に近づくかどうかを考察することを研究テーマとしている。
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