研究課題/領域番号 |
23KJ0717
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分01040:思想史関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
長尾 柾輝 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
1,500千円 (直接経費: 1,500千円)
2025年度: 500千円 (直接経費: 500千円)
2024年度: 500千円 (直接経費: 500千円)
2023年度: 500千円 (直接経費: 500千円)
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キーワード | 小ソクラテス派 / キュニコス派 / キュレネ派 / メガラ派 / シノペのディオゲネス / 思想史 |
研究開始時の研究の概要 |
ソクラテスの弟子とそれに連なる哲学学派群のうち、プラトンの学統を差し引いたグループは、慣習的に「小ソクラテス派」と総称される。20世紀後半以降、小ソクラテス派への関心は世界的な高まりを見せ、さまざまな研究が蓄積されてきた。しかし多くの場合、議論の焦点はソクラテスの直弟子たちばかりに集中し、後期小ソクラテス派については、(比較的多くの資料が現存しているにもかかわらず)主題的な検討がほとんど行われてこなかった。 こうした闕を補うために本研究は、後期の動向を視野に入れたうえで、改めて小ソクラテス派の倫理思想の実態を解明することをめざす。
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研究実績の概要 |
本研究の目的は後期小ソクラテス派(=MS)における思想内容の「画一化」現象を解明することにある。そのためには、同時代の他学派や初期MSの思想傾向全般を併せて精確に捉えることで、通時的な変化や外部との影響関係等を可視化する作業が不可欠である。そこで2023年度は、当時のギリシアにおける思想・社会・文化の全般的動向にも目配りしながら、MS一般の倫理思想を多角的に検討した。 文献学的な調査が作業の中心となり、ギリシア語およびラテン語のテキストを収集・読解した。さらにそれと並行して、古典期ギリシアに限定されないさまざまな時代・地域の思想研究を幅広く調査した。(1)前者の文献学的な研究手法の成果としては、以下に挙げるふたつの口頭発表を実施した。第一に、古典文献学会では、kosmosというギリシア語の用例分析をもとに、MSの一分派にあたるキュニコス派の思想が、従来の解釈とは異なる視角から捉えられうるのだと主張した。第二に、共催したシンポジウム「古代から近世にかけての古代ギリシアのテクストの受容と利用」では、「アミュンタスに宛てて」という資料を取り上げ、従来の解釈に対する反論を提起した。同資料については、MSの一分派であるメガラ派との関連が疑われており、この点についても詳細に調査したうえで論及した。(2)また、哲学・倫理学的な解釈にまで踏み込んだ成果として、以下に挙げる三つの論文を発表した。第一に、『西洋古典研究会論集』所収の論文で、MSの一分派であるキュレネ派の快楽観を再構成した。第二に、『倫理学紀要』所収の論文で、キュニコス派の実質的な創始者であるシノペのディオゲネスの思想形成過程を、隣接諸分野の知見も借りながら多角的に考察した。第三に、『倫理学年報』所収の論文で、キュニコス派の身なり・服装に着目し、文学や文化人類学の先行研究にも触れながら、同派の演劇性・パフォーマンス性を論じた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
総合的に見て、2023年度は当初の計画を大幅に上回る成果を上げることができた。とりわけ、哲学・倫理学的な解釈について大きな進展があり、次年度の研究目標をある程度先取りする結果となった。その理由としては、分野の枠に囚われない多角的な文献調査が、想定以上に有益な示唆をもたらしてくれた点が挙げられる。また、研究発表や学会・研究会での意見交流を意欲的におこなうことで、みずからの構想を練り直す機会に多く恵まれたことも大きかった。
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降は、後期MSの倫理思想を主題的に扱った研究成果の発表をめざす。より具体的には、後期メガラ派およびエレトリア派(いずれもMSの一分派)の代表的思想家であるスティルポンとメネデモスに注目し、彼らの思想の内実を古典資料に根ざして考察する。また、後期MSの倫理思想はしばしば一様に「キュニコス化」したと評価されるが、そもそも「キュニコス的である」とはいかなることであるのか判然としない。そのため、今年度から引き続き、キュニコス派の倫理思想に的を絞った研究も継続しておこなう必要がある。
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