研究課題/領域番号 |
23KJ0725
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分17040:固体地球科学関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
坂井 郁哉 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,000千円 (直接経費: 3,000千円)
2025年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
2024年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
2023年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
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キーワード | 火星コア / 高圧実験 / 鉄 / 硫黄 / 状態図 |
研究開始時の研究の概要 |
近年の火星探査によって火星コアに関する観測が得られるようになり、特にInSightの測定データによって火星コアがこれまでの推定よりも大きいことが明らかとなった。一方で、物性科学の観点からは大きな火星コアに対する構造や組成の制約が不足している。 本研究では超高圧発生装置ダイヤモンドアンビルセル(DAC)を用いて火星コア条件を再現し、大型放射光施設SPring-8での高エネルギーX線測定を用いることで鉄-硫黄試料の物性測定を行う。これらの研究を通して火星コア圧力における鉄-硫黄系に関する理解を深め、火星コアの構造を決定・予言する。
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研究実績の概要 |
本研究の目的は、火星コアの構造を高圧実験を通じて解明することである。そこで火星コアの主要な軽元素とされる硫黄に着目した。本年度の研究では、1) FeとFeSの中間化合物であるFe3S2とFe12S7の安定領域を決定し、2)Fe12S7の状態方程式を決定した。
1)これまで、21万気圧での研究ではFeとFeSの中間化合物にFe3S, Fe2S, Fe3S2の3種類の硫化物があることが知られていた。しかし火星の中心圧力である40万気圧における研究は不十分であった。本研究では、Fe3S2試料の高温高圧下でのX線回折測定を行った。その結果、40万気圧ではFe3S2がFe12S7+FeSに分解することを明らかにした。また、融解実験時のX線回折測定から、液体の出現時にFe12S7の回折パターンが残っていることが確認され、Fe12S7が液体と共存するリキダス相であることが示唆される。 2)上記の結果から、火星のような十分に硫黄に富んだ鉄-硫黄系において、Fe12S7が結晶化する可能性が示唆された。結晶化したFe12S7が重力に従ってコア中央に沈み内核を形成するか、浮かんで再溶融し密度成層コアを形成するかは、結晶化したFe12S7と液体コアの密度の大小によって決定する。本研究ではFe12S7の状態方程式を決定し、火星コア中におけるFe12S7の密度を推定した。さらにその密度を観測による火星コアの密度と比較した。本研究からFe12S7の結晶は火星の液体コアよりも密度が大きいことが明らかとなり、もし火星コアでFe12S7が結晶化するならば、Fe12S7内核が形成される可能性が示唆される。
これらの研究を通じて、火星のような非常に硫黄に富んだ惑星において、Fe12S7が重要な役割を果たす可能性が分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初は、これまで研究が<21万気圧までに限られていたFe3S2が安定に存在する圧力領域と、その状態方程式を決定することを目標としていた。しかし、本年度に行った30万気圧以上のすべての実験でFe3S2がFe12S7+FeSに分解することが確認された。Fe12S7は2022年に初めて報告された、約100万気圧において安定な硫化鉄であり、本研究によりその安定領域が非常に広いことが明らかとなった。またこれらの実験からFe12S7の状態方程式を決定した。これらの研究成果はAmerican Geophysical UnionのAnnual Meeting 2023で発表したほか、現在論文を執筆中である。 以上の成果に加え、本年度の実験からFe12S7が液体と共存するリキダス相であることが示唆された。さらに融解実験からFeSを結晶化する液体の組成を制約することができた。これらの研究成果はFe3S-FeS系の状態図に対して大きな制限を課す予察的なデータである。 以上より、当初の進捗状況から想定以上に進捗していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究により、火星コアの中心ではFe12S7が結晶化する可能性が明らかとなった。その場合、火星中心にはFe12S7内核が形成されることとなる。一方で、Fe3Sもまた火星コアのリキダス相の候補である。そのため、Fe12S7内核の可能性を議論するためには、Fe12S7が結晶化するような組成(リキダス領域)を決定することが必要である。来年度以降の研究では、複数の組成のFe-S試料の融解実験から、Fe-FeS系のリキダス相関係を明らかにすることを目指す。
また、火星の液体コアの組成を精密に決定することも重要である。現在の火星コア組成は、第一原理計算に基づいた密度-組成関係から推定されている。一方で、火星コアの圧力領域では鉄のスピン状態が変化することが知られており、第一原理計算による推定には不確実性が伴う。またFe-S試料の液体密度測定は火星コア圧力ではほとんど行われておらず、限られたデータも硫黄量が不十分である。そこでFeS液体の密度測定を火星コア圧力下で行うことで、密度-組成関係を再構築することを目指す。
以上の二つの実験によって火星コアの内核の存在可能性を議論することを目指す。
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