研究課題/領域番号 |
23KJ0732
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分13010:数理物理および物性基礎関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大賀 成朗 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,700千円 (直接経費: 2,700千円)
2025年度: 900千円 (直接経費: 900千円)
2024年度: 900千円 (直接経費: 900千円)
2023年度: 900千円 (直接経費: 900千円)
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キーワード | 非平衡熱力学 / 情報幾何学 |
研究開始時の研究の概要 |
非平衡熱力学は、非平衡状態にある多体系のエネルギー的側面の記述とその性質の解明を目指す研究領域である。非平衡熱力学ではこれまで一般論の研究が先行し、さまざまな一般的性質が発見されてきた。しかし、それらを複雑かつ具体的な系の解析に適用する際には、系の多数の自由度のうち一部のみで完結した理論を作る「粗視化」が重要になる。本研究課題では、情報幾何をはじめとする数理手法を利用して、既存の粗視化方法を系統化し、新たな粗視化方法を系統的に探索する。さらに、得られた手法を生化学系や非平衡統計力学系の解析に応用する。
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研究実績の概要 |
粗視化された少数の観測可能な自由度と、系の熱力学量とを結びつける普遍的関係式を見出すという方針に基づき、前年度までの成果を発展させて次の3つの研究を完成させた。 (1) 相互相関関数の非対称性と呼ばれる統計量が、サイクルの熱力学力で普遍的に制約されることを、昨年度に特殊な状況で発見していた。本年度は適用範囲を広げるための一般化を行い、サイクルを適切に選択することでより広い範囲の系で強い不等式が得られること、特殊な連続系で同様の不等式が成立することなどを発見した。これらを含めて、論文の仕上げや投稿・改稿を行い、論文は Physical Review Letters 誌に出版された。 (2) 外場をかけた平衡状態での物理量の値から、緩和過程でのエントロピー生成の下限が推定できることを、昨年度以前に発見していた。今年度は、網羅的な数値計算により手法を検証し、得られる下限値と真の値との誤差が二乗スケーリングに従うことを発見した。また解析計算によってこれを証明した。この結果を付け加えて論文を改稿し、論文は Physical Review Research 誌に出版された。 (3) 非平衡系と平衡系のダイナミクスを比較し、時間発展演算子の固有値の差分とエントロピー生成率を結びつける普遍的な不等式を、昨年度に発見していた。本年度は、数値最適化を用いた網羅的な数値計算を行い、小さな系に対して不等式がタイトであることを検証した。これらをまとめて、論文の仕上げ・投稿を行い、論文は Physical Review Research 誌に出版された。この研究は A. Kolchinsky 氏が筆頭著者であり、共著者として参画した。 以上の3つの研究は、実験的に取得可能な粗視化された観測量の情報を用いて、系の熱力学的性質を議論する手法を与えるため、複雑な系の熱力学的性質の解明につながると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究課題開始前から本研究課題に関連して着手していた研究のすべてについて、研究を発展させて完成させ、論文として出版することができた。これらは研究課題名の「系統化と探索」のうち、「探索」にあたるものである。一方、「系統化」のためには、手法を拡張・一般化したり、数理構造に基づいて整理したりする必要がある。これらに関しても、本年度に予備的な研究に着手した結果、今後取り組むべき課題が明らかになった。以上を総合すると、おおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
系統化を進めるため、これまで得られた結果(特に相互相関関数の非対称性に関する熱力学的制約)に関して次の2点を行う。 (i) 結果を連続系、量子系などに拡張することを通じて、背後にある構造を明らかにする。(ii) 他の研究グループによる既存の研究(例えば摂動応答に関する熱力学的制約)との関連を調べることを通じて、背後にある構造の共通性・差異を明らかにする。 さらに、本研究課題の計画には、手法の具体的な系・現象の解析への応用も含まれているため、古典多体系の非平衡現象や、生物実験の公開データを対象とした具体的な解析にも着手する。
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