研究課題/領域番号 |
23KJ0733
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分17010:宇宙惑星科学関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
栗原 かのこ 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,000千円 (直接経費: 3,000千円)
2025年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
2024年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
2023年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
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キーワード | 飛行時間型ICP質量分析法 / 液中レーザーアブレーション法 / コンドライト隕石マトリックス / 個別微粒子化学分析 |
研究開始時の研究の概要 |
原子番号がFe以降の重元素は、主に中性子捕獲反応(s過程とr過程)により合成される。このような元素の起源や太陽系までの輸送過程を明らかにすることは、宇宙・銀河の形成史や太陽系の進化の解明に必要不可欠である。合成過程のうちr過程は、高温で中性子が大過剰な環境での爆発的な反応を通して進行するため、理論計算に基づく元素・同位体合成量の推定が困難であり、合成環境など多くのことが未解明である。本研究では、始原的な隕石であるコンドライト中に存在する太陽系初期・以前の情報を持った微粒子に着目し、粒子個別の元素・同位体組成分析からr過程元素の合成環境、太陽系までの輸送時のキャリアを明らかにする。
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研究実績の概要 |
本研究では、隕石から抽出した微粒子の化学組成・サイズを分析することにより、太陽系形成以前の情報を有するプレソーラー粒子を発見し、重元素の合成過程や太陽系までの輸送過程を制約することを目的としている。 プレソーラー粒子は始原的な隕石のマトリックスに含まれていることが知られているため、隕石のマトリックスから液中レーザーアブレーション(LAL)法を用いて位置選択的に抽出した微粒子1つ1つを飛行時間型 ICP 質量分析法(ICP-TOF-MS)を用いて化学分析し、プレソーラー粒子を同定・解析することを目指す。 ICP-TOF-MSによる微粒子個別分析では、データの量が膨大になることが課題であるため、昨年度にはICP-TOF-MSにより測定した微粒子の元素組成・サイズを迅速かつ視覚的に解析するソフトウェア(NP Shooter)を開発した。ICP-TOF-MSで測定した隕石微粒子をNP Shooterを用いて解析した結果について、今年度論文の国際誌掲載と国際学会での発表を行い、本手法を広く公表した。 今年度はさらに、異なる3種類の隕石のマトリックス粒子の元素組成分析を行った。分析の結果、個々の微粒子の鉱物種の同定と、隕石の分類間での鉱物組み合わせの比較を行うことができ、本手法を様々な隕石試料へ適用可能であることを確認した。 また、隕石試料の分析時に、水を用いたLAL法では隕石表面から元素が溶出する場合があることが明らかになった。元素の溶出に伴う問題を回避するため、本研究では極性の低い有機溶媒を用いたLAL法に着目した。極性の異なる4種類の溶媒への隕石からの元素の溶出を調べた結果、極性が低い溶媒ほど元素の溶出が小さいことが確認できた。本実験により、水への元素溶出が大きな隕石でも溶媒中への元素の溶出を抑えて分析することが可能になり、本手法を適用可能な隕石種の幅を広げることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでにICP-TOF-MSで測定した微粒子データを解析するソフトウェアを開発してきたが、実際に様々な隕石、特にプレソーラー粒子が存在すると考えられる始原的な隕石に対して適用可能であるかは未確認であった。本年度は、開発してきた手法を用いて複数の隕石を分析し、本手法により個々の粒子の鉱物種の同定や隕石の鉱物組み合わせの分析が可能であることが確認できた。この実験の成果については、国内の学会で発表を行った。 また、様々な隕石を分析する中で、水質変成や地球での風化の影響を大きく受けた隕石に対して水を用いたLAL法を適用した場合に、隕石表面から元素が溶出する場合があることが判明した。元素の溶出により、装置の汚染や検出器のダメージなどの分析上の問題が生じる。本研究では、極性の異なる溶媒を用いたLAL法を比較することにより、極性の低い溶媒を用いることで隕石からの元素の溶出を水を使用した場合の約1/100まで低減可能であることがわかった。このように、実験に伴って判明した問題についても対処法を見出すことができ、本手法を適用できる隕石を増やすことにつながった。この実験の結果については、次年度の国内学会で発表する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、(1)ICP-TOF-MSの高感度化と(2)ICP-TOF-MSを用いた個別粒子の同位体分析手法の確立を行う。 (1)ICP-TOF-MSを用いた微粒子分析により数十nmのプレソーラー粒子を同定するためには、現在の約10倍の分析感度が必要である。本研究では、主に装置のインターフェース部の高真空化とイオン抽出部(サンプリングコーン、スキマーコーン)の最適化により、10倍の増感を試みる。 (2)これまで本研究では、ICP-TOF-MSを用いた個別微粒子の元素分析に焦点を当てて、分析・解析法の開発を行ってきた。これにより、隕石微粒子の鉱物同定を行うことができ、プレソーラー粒子が同定できた際には、元素の合成環境から太陽系までの輸送過程についての情報を得ることが可能である。一方で、プレソーラー粒子は太陽系の同位体比と異なる同位体比を持つこと(同位体異常)から同定するため、プレソーラー粒子の同定には幅広い質量範囲の元素について同位体異常をチェックすることが必要不可欠である。膨大な微粒子データに対してこのような同位体異常の確認を手作業で行うことは困難であるため、本研究では同位体異常を判別しプレソーラー粒子の候補を絞り込むことが可能なソフトウェアの開発を目指す。
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