研究課題/領域番号 |
23KJ0734
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分60010:情報学基礎論関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
吉田 智治 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,200千円 (直接経費: 4,200千円)
2025年度: 1,400千円 (直接経費: 1,400千円)
2024年度: 1,400千円 (直接経費: 1,400千円)
2023年度: 1,400千円 (直接経費: 1,400千円)
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キーワード | 高階量子演算 / アイソメトリ操作 / 誤り耐性量子計算 |
研究開始時の研究の概要 |
量子情報処理における量子状態・量子操作は古典情報処理におけるビット列・関数に対応する基本的な構成要素である。量子プログラミングを記述する方法として、従来は量子状態の変換による記述が主流であったが、近年量子演算を変換するアルゴリズムである高階量子演算が新たな量子プログラミング手法として注目されている。 本研究では群論や半正定値計画法に基づいた数理手法の開発を行うことで、高階量子演算の数理構造を明らかにする。また、この数理手法に基いて新たな高階量子アルゴリズムを提案し、量子計算・量子暗号への応用を目指す。
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研究実績の概要 |
1. 前年度の研究内容である決定論的かつ厳密なユニタリ反転アルゴリズムについての論文のアップデートおよび出版作業を行い、Physical Review Letters誌より出版された。 2. ユニタリ反転アルゴリズムは量子系の可逆な時間発展を表すユニタリ操作がブラックボックスとして与えられた時に逆操作を出力する高階量子アルゴリズムであり、「時間反転」のシミュレーションに対応する。ユニタリ反転アルゴリズムを量子情報の符号化を表すアイソメトリ操作の場合について拡張する系統的な方法を導出し、アイソメトリ共役化と呼ばれるタスクを実現するプロトコルを提案した。また、この方法が近似精度の意味で最適であることを導出するとともに、最適な近似精度を数値的に求める方法を考案した。本研究内容について論文にまとめ、arXivにプレプリントを投稿した(arXiv:2401.10137)。 3. 大規模な量子計算をノイズのある現実の系で実行するためには誤り耐性量子計算と呼ばれるプロトコルを実行することが必要不可欠である。一方で、従来の誤り耐性量子計算の方法は必要な量子ビット数が非常に大きく、この空間オーバーヘッドが誤り耐性量子計算を実現する際の大きな障壁となっている。本研究では[H. Yamasaki and M, Koashi, Nat. Phys. 20, 247-253 (2024)]で提案された定数空間オーバーヘッドプロトコルを最適化することにより、閾値を高く保ったまま表面符号などの従来手法に比べて空間オーバーヘッドを大幅に削減するプロトコルを提案した。本研究については論文にまとめ、arXivにプレプリントを投稿した(arXiv:2402.09606)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の研究計画では高階量子アルゴリズムの研究としてアイソメトリ操作の逆変換化や共役化のアルゴリズム開発を1年目の研究目標に据えていたが、その目標を達成し研究内容をarXivにプレプリントとして発表した(arXiv:2401.10137)。当初の計画にはなかった誤り耐性量子計算についての研究も開始し、こちらについても量子ビット数を大幅に削減するプロトコルの提案と数値シミュレーションについての論文をarXivにプレプリントとして発表した(arXiv:2402.09606)。現在、高階量子アルゴリズムの研究で培った解析手法を用いて、port-based teleportationと呼ばれるテレポーテーション手法や量子スイッチと呼ばれる通常の量子回路では実現できない特殊な因果構造についての数理構造の研究をフランス、スイス、ポーランド、オランダ、カナダなど様々な国の研究者と共同研究として推進しており、いくつかのプロジェクトについては現在論文執筆中である。このように、当初の研究計画から派生した多くのプロジェクトや完全に新しい分野についての研究が実施できており、研究成果を論文としてアウトプットできているため現在までの進捗状況は当初の計画以上に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
1. 高階量子アルゴリズムに関連した研究としてport-based teleportationや量子スイッチの数理構造についての研究を現在実施しており、これらの研究成果を論文としてまとめる予定である。また、通常の高階量子アルゴリズムにおいては入力の量子操作についての情報が全くない状況を考えることが多いが、実際には入力の量子操作についての構造が部分的に分かっている状況が多い。例えば、計算量理論などの文脈でよく考えられるオラクルと呼ばれる問題の入力の情報を持ったユニタリ操作は計算基底について対角化されているなどいくつかの構造を保持している。入力の量子操作について部分的に分かっている構造を用いることで高階量子アルゴリズムの性能を向上させることが可能であるか、その限界はどのようなものであるか、などについて半正定値計画法や群論的手法などの数理手法を用いて研究を行っていく予定である。 2. 誤り耐性量子計算についての研究で、スタビライザーシミュレーションを用いた数値シミュレーションやコーディングの技術を培った。今後もこの技術を用いて主に数値的な手法から誤り耐性量子計算の最適化などについて研究を推進していく予定である。
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