研究課題/領域番号 |
23KJ0767
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分47010:薬系化学および創薬科学関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
幅崎 美涼 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,000千円 (直接経費: 3,000千円)
2025年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
2024年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
2023年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
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キーワード | ヒストン / アセチル化 / 触媒 / エピゲノム / アセチルCoA |
研究開始時の研究の概要 |
ヒストンタンパク質のアセチル化修飾は遺伝子発現の動的な制御に深く関わり、その異常はがん等の疾患に繋がる。したがって、ヒストンアセチル化の化学的な制御は、機能解明や治療への応用が可能である。 本研究では、特定の遺伝子領域においてヒストンテールを強力にアセチル化できる化学触媒を開発することで、酵素に依存しない化学的なヒストンアセチル化によって転写促進と抗がん効果の発現を達成することを目標とする。
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研究実績の概要 |
細胞核内に存在するヒストンタンパク質は、DNAの格納を担うとともにアセチル化に代表される多様な翻訳後修飾を受けることでエピゲノムを構成し、遺伝子発現の動的な制御において重要な役割を果たしている。ヒストンアセチル化レベルの異常はがん等の疾患と関連することが知られていることから、ヒストンアセチル化は有望ながん治療ターゲットとなる。本研究では、生細胞内でヒストンアセチル化を酵素に依存することなく直接促進可能な化学触媒の開発を行う。さらに触媒の機能化を行うことで、ヒストンアセチル化を介した転写への介入・抗がん効果の誘導を目指す。 課題担当者はこれまでに、細胞内代謝物アセチルCoAを活性化してヒストンをアセチル化可能な化学触媒mBnAを開発した。本成果は、触媒を細胞に添加することで、外部アセチル源の添加を一切必要とすることなくヒストンアセチル化を促進できるという点で、生体応用・治療応用の観点から優れている。加えて本年度は、mBnA触媒のさらなる応用可能性の実証に取り組んだ。mBnA触媒は内在性のアセチルCoAを用いて核内ヒストンタンパク質をアセチル化するという特徴から、mBnA触媒によるヒストンアセチル化反応の進行度は、細胞内、特に核-細胞質区画におけるアセチルCoA濃度と相関すると考えられる。したがって、mBnA触媒は核-細胞質内アセチルCoA濃度を検出するためのプローブとしての応用が可能と予想し、その実証を行った。結果として、触媒によるヒストンアセチル化レベルはアセチルCoA濃度と相関することが示された。本触媒をアセチルCoAプローブとして用いることで、細胞のアセチルCoA代謝が栄養状態の変化に応じてどのように変化するかを解析することにも成功した。本結果を含むmBnA触媒の開発から応用までの一連の流れを論文としてまとめ、本年度受理・掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
生細胞内に酵素が用いるアセチル源として存在している代謝物アセチルCoAを利用してヒストンアセチル化を進行させることのできる化学触媒mBnAの開発は、本研究において核となる研究成果である。本年度は本触媒の生細胞内におけるヒストンアセチル化反応のタンパク質・残基選択性や濃度依存性、クロマチン構造依存性などの詳細の解析を行ったことで、mBnA触媒の特性の理解に繋がった。本成果は次年度以降に触媒活性の改良や機能化を行うにあたって重要な知見となる。 加えて本年度は、mBnA触媒を生細胞内アセチルCoA濃度のプローブとして用いることができることも見出した。これまでに生細胞内、特に核-細胞質内に限定したアセチルCoA濃度の簡便な検出が可能な手法は確立されていなかったことから、本成果の意義は大きいと考える。ヒストンアセチル化に関連する疾患では、本研究の当初の標的であるヒストンアセチル化の導入の他に、アセチル源となるアセチルCoA代謝も関連する場合があることが知られている。本成果によって、mBnA触媒はヒストンアセチル化関連疾患に対し、ヒストンアセチル化の制御とアセチルCoA代謝の解明の両面のアプローチで応用できる可能性が示唆されたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究計画の基盤となる、細胞内アセチルCoAを用いたヒストンアセチル化が可能な化学触媒の確立に成功したことから、今後はmBnA触媒をベースとした(1)触媒活性の向上、(2)触媒への遺伝子選択性の付与、という二つの方向性から触媒改良・機能化を行っていく予定である。 (1)触媒活性の向上については、DFT計算に基づいた触媒反応機構の解明を行い、得られた知見に基づき構造改変を行っていく。(2)触媒への遺伝子選択性の付与については、DNA配列特異的認識分子であるPyrrole-ImidazolePolyamide(PIP)を触媒に繋げることで、標的遺伝子配列とヒストンを同時に認識可能な触媒系へと改良することを目指す。
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