研究課題/領域番号 |
23KJ0780
|
研究種目 |
特別研究員奨励費
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分15020:素粒子、原子核、宇宙線および宇宙物理に関連する実験
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
岩田 季也 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2026-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
2,800千円 (直接経費: 2,800千円)
2025年度: 900千円 (直接経費: 900千円)
2024年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
2023年度: 900千円 (直接経費: 900千円)
|
キーワード | X線天文学 / X線偏光計 / 半導体検出器 / ブラックホール |
研究開始時の研究の概要 |
ブラックホールスピンは物質が降着した際のエネルギーの変換効率を決め、磁場を介した回転エネルギー供給に関係する重要な物理量である。本研究では、質量が太陽質量の10倍程度である恒星質量ブラックホールのスピンの正確な測定を目指す。そのために、(1) モンテカルロ輻射輸送計算に一般相対論的効果を組み込んだモデルの構築、(2) X線精密分光スペクトルおよび時間変動データの解析、(3) 微小ピクセル半導体検出器を利用したX線偏光計の開発を行う。
|
研究実績の概要 |
ブラックホールスピンの測定は、ブラックホール天体における高エネルギー現象を理解する上で重要な課題である。本研究はX線偏光計の開発とX線天文衛星の観測データのタイミング・スペクトル解析によるブラックホールスピンの測定を目指している。 X線偏光計の開発では微小ピクセルCMOSイメージセンサを用いた光電子のトラッキングによるX線帯域での偏光観測の実現を目指している。これまでにピクセルサイズ2.5 μmの微小ピクセルCMOSイメージセンサにより、偏光検出の原理検証実験に成功していた。しかし、天体からのX線の偏光をとらえるには検出器の偏光測定性能を改善する必要がある。データ解析手法の改良と、ピクセルサイズのより小さなセンサの使用により偏光測定性能を改善した。イベントの広がりに注目し、偏光に対する感度が高いイベントを選び出して解析することにより、偏光測定性能の改善に成功した。さらに、2.5 μmよりもピクセルサイズの小さい、ピクセルサイズ1.5 μmのCMOSイメージセンサの偏光測定性能を評価した結果、1.5 μmセンサを用いることで偏光測定性能が、2.5 μmセンサを用いた場合の1.2倍程度に向上することを確認した。 天体解析では鉄輝線の変動とスペクトルから、鉄輝線の起源を推定し、ブラックホールスピンを測定することを目指している。鉄輝線の光度曲線の解析をさらに発展させて、放射領域を制限するために、観測間隔が一定でないデータを解析するための補間・外挿手法の改良を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は以下の通り順調に進展している。 X線偏光計の開発では偏光測定性能の向上のため偏光解析手法を改良し、イベントの広がりが小さく熱拡散の影響が少ないと予測されるイベントを抽出して解析を行うことで、ピクセルサイズ2.5 μmのセンサの偏光測定性能を改善することに成功した。ピクセルサイズが小さいセンサほど、光電子の飛跡を正確に捉えられ光電子放出角の推定精度が上がるため、偏光測定性能が高いと予想される。そこで、KEK Photon FactoryとSPring-8のシンクロトロン放射光を利用したビーム実験により、ピクセルサイズの小さい1.5 μmのCMOSイメージセンサの偏光測定性能の評価と、2.5 μmのセンサと1.5 μmのセンサの検出効率の測定を行った。測定データを解析して、1.5 μmのCMOSイメージセンサの使用により偏光測定性能がさらに1.2倍程度向上することを明らかにした。また、それぞれのセンサの、エネルギーごとの検出効率の測定結果から有感層の厚さを推定した。現在、これらの測定結果をもとにX線偏光計による天体の観測計画を検討し、開発方針を議論している。ピクセル半導体センサのシミュレーションにより、ピクセルサイズや有感層厚といったセンサのパラメータと、検出器の偏光測定性能の関係を調べた。その結果、1.5 μmのセンサの偏光測定結果は、熱拡散の影響を考慮すれば再現できることや、ピクセルサイズが小さく、センサが厚く、熱拡散の影響が小さいほど偏光測定性能が高くなることがわかった。天体解析では、ブラックホール天体の鉄輝線の起源特定のための解析を進展させた。現在、光子追跡モンテカルロX線輻射輸送コードへの一般相対論的効果の導入を進めている。
|
今後の研究の推進方策 |
昨年度は、2.5 μmセンサと1.5 μmセンサの有感層厚と偏光測定性能を測定した。これらの結果から、それぞれのセンサのX線の偏光検出感度を計算することができる。求めた偏光検出感度をもとに天体観測計画を立て、偏光観測の実現に向けた今後の具体的な開発方針を定める。特に、1.5 μmセンサは読み出すデータの容量が大きく、データの取得や転送、保存に時間がかかる。そのため、現状では1フレームの撮影にかかる時間が露光時間よりも大幅に長くなってしまっている。そこで、効率的な天体観測の実現のために、センサの一部のピクセルのデータだけを読み出すことでデータ取得の高速化とデータの削減を進める予定である。 現在、光子追跡モンテカルロX線輻射輸送コードへの一般相対論的効果の導入を進めている。今後は開発している一般相対論的光子追跡モンテカルロX線輻射輸送コードの検証を進める。次にブラックホール天体のX線観測データと比較するためのモデルを構築する。具体的には、ブラックホール周辺の幾何構造を仮定し、開発した一般相対論的光子追跡モンテカルロ輻射輸送コードを用いて観測されるX線光子の時刻とエネルギーを計算し、エネルギーごとのX線の光度曲線や、エネルギースペクトルを作成する。X線天文衛星・望遠鏡の観測データを時間とエネルギーの両方に注目して解析し、構築したモデルと比較することで、ブラックホール周辺の環境を明らかにする。さらに、一般相対論的光子追跡モンテカルロ輻射輸送コードで、ブラックホール周辺の幾何構造と観測されるX線の偏光の関係を明らかにする。X線偏光観測データとの比較によりブラックホール周辺の幾何構造のさらなる制限を目指す。
|