研究課題/領域番号 |
23KJ0782
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分03040:ヨーロッパ史およびアメリカ史関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
穗原 充 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,000千円 (直接経費: 3,000千円)
2025年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
2024年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
2023年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
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キーワード | ソ連 / ジョージア / トビリシ地下鉄 / フルシチョフ / 利益集団 / 中央地方関係 / 連邦構成共和国 / 比較政治 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は1950-60年代のソ連において地方が中央から政治的に自立するまでの過程を解明するものである。 「地方は中央が設定した社会主義政策の枠組みの中で、自己の利益を中央に求めるルートと自律性を獲得した。そしてこれを行使することで中央からの自立を強めた」という仮説を立て検証する。 この際地方による中央への利益追求の事例として、グルジア共和国によるトビリシ地下鉄誘致を扱う。卓越した都市・共和国の象徴だった「地下鉄」を手に入れるまでのグルジア共和国の政治家、トビリシ住民、ソ連の中央エリートの思惑と動きを、当時の新聞や党・政府内での議事録などの一次史料を用いて検証しつつ、地方・中央関係の議論に還元する。
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研究実績の概要 |
2023年はトビリシ地下鉄建設に関する一次史料を収集しつつ、修士課程までの研究成果について口頭での発表を行なった。一次史料については9月-10月にかけてトビリシ地下鉄建設に関する大まかな概要と体制から市民へのプロパガンダを理解するべく、トビリシで発行されていたロシア語新聞『ヴェーチェルヌィ・トビリシ(Вечерний Тбилиси)』『ザリャ・ヴォストーカ(Заря Востока)』を中心に収集した。ここでの成果を踏まえ、2月-3月にはトビリシ地下鉄建設に関するソ連中央-グルジアSSR間の党・政府内でのやりとり、および建設現場への諸指示を見るべく、ジョージア国立近現代文書館とトビリシ中央文書館の未公刊史料を収集した。 研究成果発表の面では、日本語での口頭発表を2回、英語での口頭発表を2回、合計4回行なった。特筆すべきは11月の鉄道史学会大会での発表と3月のThe Caucasus Research Resource Centers(以下、CRRC)での発表である。 鉄道史学会大会ではソ連の地下鉄建設に関してモスクワ、レニングラード、キエフ、トビリシでいかなる論理でこれらが正当化されてきたかを主に歴史学の観点から論じた。ここでは①交通機能の拡大(モスクワ)②都市再建の一環(レニングラード・キエフ)③人口増による都市機能不全の予防(キエフ・トビリシ)という論理が地方から中央に対し展開されたことを述べた。 CRRCではソ連における利益集団論の適用という比較政治学上の分析枠組みを用い、地方政体が一つの利益集団としてどのように中央へ交渉・圧力を試みたか、その時点で集まっていた公刊史料を材料に論じた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
史料収集の面では、当初の計画通り、トビリシ国会図書館に所蔵された地下鉄関連の書籍と新聞記事、そして各種文書館に所蔵された地下鉄建設関係史料を収集することができた。トビリシ地下鉄建設に関する先行研究(日・英・露語)の蓄積が少ない中で、ある程度まとまった分量の史料を集められているため、主に歴史学の観点から一定の成果を見込めている。 他方でソ連中央-グルジアSSR間のより高位な政治レベルでのやりとりについては、根拠となる史料を集められていない。現地の文書館司書やジョージア人研究者への聞き取りの中で、こうした史料はトビリシ交通社(Tbilisi Transport Company)に所蔵されている可能性が高いことまでは突き止めているが、この史料の所在を確認し、かつ開示してもらう見通しは立っていない。 研究成果発表の面では、査読付き論文の投稿が遅れている。当初の計画では修士論文を改編して投稿する見込みであったが、新型コロナウイルスとウクライナ紛争の影響で、モスクワでの史料収集ができず、論文として投稿できる水準に引き上げられなかった。 他方で口頭報告は国内外4回と積極的に行ない、その都度今後の研究遂行に有益な示唆を得られている。そのため2023年度中に収集した史料の分析を進めることで査読付き論文として成果を公表できる見込みである。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度は①収集した史料の分析②査読付論文の投稿③国際学会での報告を最注力項目と捉え、研究成果を積極的に公表する1年にする。 2024年度上半期は2023年に収集した史料の分析を進めつつ、6月にソウルで開催される大規模な国際学会「the 12th East Asian Conference on Slavic Eurasian Study」で口頭報告を行なう。加えて比較政治の観点からソ連における利益集団論に関する先行研究を調査し、特にロシア・ジョージアで発表されたものに対しては書評論文という形で日本国内に紹介する。 2024年下半期はその時点までの研究成果を査読付き論文として投稿することに特に注力する。現時点ではロシア・東欧の地域研究系の学会誌への投稿を見込んでいる。また進捗に応じて歴史学系の学会誌への投稿も予定している。 そのうえで9月-10月、2月-3月にトビリシでの滞在調査も計画している。ここでは現地の研究者ネットワークを用いてTTCへのアプローチを試みるほか、ソ連中央-連邦構成共和国間の中央地方関係がより観察しやすい地下鉄以外の政策・事業に関する先行研究や史料を収集する予定である。この際、必要に応じてジョージア・トビリシ以外の国や地域への調査を行うことも視野に入れている。
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