研究課題/領域番号 |
23KJ0877
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分02030:英文学および英語圏文学関連
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研究機関 | 東京藝術大学 |
研究代表者 |
内藤 瑠梨 東京藝術大学, 音楽研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
1,500千円 (直接経費: 1,500千円)
2025年度: 500千円 (直接経費: 500千円)
2024年度: 500千円 (直接経費: 500千円)
2023年度: 500千円 (直接経費: 500千円)
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キーワード | パーシー・シェリー / イギリス・ロマン派 / 抒情詩 / 英詩 / 付曲 / イギリス歌曲 / ロジャー・クィルター / 比較研究 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、イギリス・ロマン派時代に活躍した男性詩人パーシー・シェリー(Percy Bysshe Shelley, 1792-1822)の詩作品(主に抒情詩)の「音楽性」を音楽的な観点から再検討を行う。シェリーと音楽の関係については、2000年代に文学学者のQuillinによって、劇詩などの大作を中心に、伝記的または文化的背景から、今までの系譜が総括されている。しかし、シェリーの詩の音楽性が評価されている抒情詩に特化した研究は少なく、具体的な音楽作品に関する考察はない。よって、本研究では、抒情詩における「音楽性」に焦点を当て、声と感情、休符と休止、余韻・余情の三つの観点から、後世の付曲とともに比較分析を行う。
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研究実績の概要 |
本研究の目的は、パーシー・シェリー(Percy Bysshe Shelley, 1792-1822)の詩作品と後世の声楽曲に着目し、両者の類似点や相違点を比較検討することで、従来の文学研究にはない音楽家の視点を含めた、シェリーの詩における「音楽性」を再検討することである。具体的には、主に抒情詩における言葉の技巧や後世の作曲家による付曲を分析することで、あまり注目されてこなかった詩人の抒情詩における優れた特性を明らかにし、詩作品への新たな解釈を提示することを目的とする。 令和5年度は、①シェリーの晩年の抒情詩における韻律と後世の付曲における旋律を比較検討した。分析を通して、1音節に1音符を付す原則から逸脱している箇所には、作曲家各々の意図があり、原詩の表現を際立たせる効果があることを明らかにした。研究結果の一部は、日本音楽学会東日本支部 第82回定例研究会にて発表した。 そして、②シェリーが晩年にジェイン・ウィリアムズ(Jane Williams, 1798-1884)へ捧げた、通称ジェイン詩篇を精読し、詩における言葉の技巧と付曲の関係を考察した。先行研究において、ジェインの音楽の才能についてはすでに指摘されているが、彼女の奏でた音楽がどのように詩の言語に反映されているのかは議論の余地がある。分析を通して、詩の韻律や音の響きに多様な音が反映されていることを見出し、そのなかでも特に「ジェーンへ」‘To Jane’には、不規則な韻の運びの中に規則的なリズムの反復があることを示した。そのうえで、イギリス歌曲作曲家として名高いロジャー・クィルターやエルガーの付曲と比較することで、両者の原詩に対する向き合い方の違いや、クィルターの作曲姿勢が原詩の韻律に比較的忠実であることを明らかにした。研究結果は、日本シェリー研究センター 第32回大会にて口頭発表し、博士論文の礎を築くことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和5年度は、シェリーの抒情詩のうち、作曲家に人気のある題材を中心に分析を行った。複数の詩作品の分析を通して、自由な韻律の運びの中にも一定のリズムが存在し、とくにジェインに捧げた詩作品には詩人が実際に聴いた音楽を反映させた可能性を指摘することができた。これは、詩人特有の「音楽性」を論じる上では重要な点であり、詩作創作に影響を与えた女性と音楽という切り口は博士論文の核としても成立する。 また、文学と音楽の分野横断的な性質を持つ本研究を遂行するにあたり、両分野における論じ方の違いを把握することは必須となる。そこで、英詩研究会や愛知音楽研究会に参加し、積極的に意見交換することで両分野の知見を得た。これらは今後、研究を進める上で意義のある活動と言える。このように、以降の研究を遂行する土台を築いた点においては、進展したと言うことができる。 一方、詩人特有の「音楽性」を提示するには、他の詩人との比較が必要である。同時に、イギリス歌曲作曲家ロジャー・クィルターの曲付けの特徴や原詩に対する向き合い方の特異性を提示するためには、他の作曲家との比較も必要となる。この点に関しては、イギリス・ロマン派時代の詩作品の精読や、同じ題材を基にした複数の付曲の分析を引き続き行いながら、精査していく所存である。
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今後の研究の推進方策 |
令和6年度は、当初の研究計画書に記した通り、引き続きシェリーの抒情詩と後世の付曲の分析・比較を通じて、詩作品への新たな解釈を探っていく。変更点としては、年代順に全てを網羅的に比較するのではなく、特に音楽の才ある女性に捧げられた晩年の抒情詩とそれらを基にしたロジャー・クィルターの7つの付曲を中心に比較検討することとする。というのも、クィルターの曲付けの特徴や原詩への向き合い方が特異である可能性が考えられるためである。付曲に対する姿勢や作曲意図の検討には、他の作曲家の楽曲を参照しつつ、手記や手紙を調査することで客観的な裏付けを行う。 また、シェリーと音楽との関係を論じる出発点として、『詩の擁護』という詩論は重要である。この散文の精読を通して、詩人の音に対する感受性の豊かさや、詩と音楽に関わる言説をまとめる必要がある。くわえて、イギリス・ロマン派時代を中心とした他の詩作品と比較することで、シェリーの詩における言葉の技巧が詩人特有のものであるのか、という点についても精査する。そのうえで、引き続き草稿や手紙、妻メアリの日記・手帳などの一次文献を精読し、シェリーと実際の音楽との関わりを調査する。同時に、当時の音楽文化に関する資料収集を行い、当時詩人が耳にした音や音楽が、詩作創作にどの程度影響を及ぼしたのかを考察する予定である。必要であれば、オックスフォード大学のボドリアン図書館やユニヴァーシティ・コレッジのシェリー記念館、大英図書館にて資料収集する。
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