研究課題/領域番号 |
23KJ0892
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分29020:薄膜および表面界面物性関連
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
柳本 宗達 東京工業大学, 物質理工学院, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
1,800千円 (直接経費: 1,800千円)
2024年度: 900千円 (直接経費: 900千円)
2023年度: 900千円 (直接経費: 900千円)
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キーワード | カソードルミネセンス / 透過型電子顕微鏡 |
研究開始時の研究の概要 |
高速電子による励起発光はカソードルミネセンス(CL)と呼ばれ、この現象を利用した物性評価は、半導体や光デバイスの評価に用いられてきた。本研究で我々は、光の時間相関計測を行う装置を導入する事で、サブナノ秒スケールでの時間分解能を獲得したCL法の開発・運用を行う。この時間分解CL法を用いることで、励起効率・発光効率などの物性情報を、仮定なく取得する手法の確立を目指す。また、電子線の励起位置と同期した相関測定系を実装する事で、物性情報の空間分布を可視化する。これにより、光学デバイスの安定・高速化において大きな障害となっていた微細情報の不足が解消され、高精度での光子源の発光特性制御が実現する。
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研究実績の概要 |
申請者は、これまでに、電子線励起発光であるカソードルミネセンス(CL)について、Hanbury Brown-Twiss (HBT) 干渉計を用いた時間相関計測を通じ、ナノ空間分解能での材料の発光寿命測定を行う研究に取り組んできた。 2023年度には、大きく2つの研究を実施した。まず一つ目は、従来のCL-HBT法を発展させ、励起電子と放出光子との間の励起相関を計測する、電子―光子相関計測法を開発した。これは電子の飛来タイミングをシンチレータ用い取得し、目的とする試料の発光と時間的な相関を計測することで実現した。変換効率が高いシンチレータを選択する事で、従来のCL-HBT法では測定が困難であった発光源密度が薄い試料についても、寿命測定が可能になる。また、解析式からは電子と光子との相互作用を定量化する係数の抽出が可能である事が分かり、実験的にも検証することに成功した。ここでの結果は、電子と光子の量子的な相関を、ナノ空間分解能において評価する、量子相関顕微鏡の実現に寄与するものであると考えており、申請者の主著論文として海外論文誌に掲載され、大学のHPにてプレスリリースされた。 二つ目は、CL-HBT法から得られる相関関数そのものについて解析を行い、高速電子により励起する光状態の評価を行う手法の開発に取り組んだ。CLにおける高速電子による発光機構についてモデル化し、様々な励起機構における発光について励起の素過程の解析を行った。これまで理論体系が曖昧なまま利用されてきたCL-HBT法について一定の解釈を与えるものであり、CLの励起機構の解明に寄与するものであると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の研究計画の中心としていた相関マッピングシステムの構築を実現し、幾つかの試料について測定を行った。特に、近年太陽電池の材料として注目をされているハロゲン化物ペロブスカイトについて、相関マッピングシステムを用いて発光寿命の空間分布を解析することで、ナノメートルスケールの輝点が点在することを確認した。この成果は共著論文として発表済みである。そのほかに、半導体の表面欠陥に起因した発光特性の変化を、マッピングシステムを利用することで可視化することに成功し、国内・国際学会で発表をしている。このことからも、相関マッピングシステムについてはそのハード・ソフト両面で、実用化が可能なものが実現している。初年度の計画にもう一つ挙げていた、相関測定から物性情報を取得する手法についても、測定や解析はすでに終了しており、現在は投稿論文として執筆している。理論的な考察を積み重ね、高速電子による光励起機構について包括的な解釈を与える重要な成果が得られた。また、2年目に取り組む予定であった、励起電子と放出される光子との時間相関計測を行う、電子―光子相関計測法についても、装置の開発および測定を行い、こちらの成果については主著論文として既に発表している。得られる電子―光子相関関数からは、量子的な相関についてアクセスできる可能性が得られ、今後の新たな展望につながると考えている。 まとめとして、計画から順序が前後している部分はありながらも、当初取り組もうとしていた事項の多くは完遂しており、今後は派生した新たな知見に対する研究を深めていくとともに、現在までに確立した手法を用いて様々な材料への応用に取り掛かる予定である。以上より、申請者のこれまでの研究実績は、おおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
大きく3つの研究推進方策を考えている。まず1つ目は、電子―光子相関計測を用いて、量子もつれの実験的な観察を行う研究に取り組みたいと考えている。これまで多くの理論的な論文で、電子と光子との間で量子もつれ状態が形成されることが予想されている。申請者の提案した電子―光子相関計測法からは、こうした量子的な相関についてもアクセスが可能であることが分かった。そこで、今後は試料の構造や実験系を工夫することで、電子と光子との間の量子相関の実験的な観察を行い、量子相関顕微法としての応用法を確立する。 2つ目は、様々な材料について光子相関計測法を適用し、新たな物性情報の解析に取り組みたいと考えている。初年度に行った研究を通じ、これまで曖昧な理解のまま通用されていた、高速電子による物質の発光現象について、包括的に記述が可能なモデルの構築に成功した。そこでの成果から、従来はアクセスが困難であった新しい物性情報が得られることが分かった。今後は、初年度に確立したマッピングシステムにと組み合わせ、多様な物性情報の空間分布をナノメートル分解能で可視化することで、材料分野に新しい知見を提供する研究に取り組む。 3つ目は、パルス電子銃と組み合わせた相関測定を行い、長寿命な材料について寿命測定を行う機構の確立を行いたいと考えている。現在用いている装置は通常の電子銃を用い連続電子線を発生させることで、相関測定を行う。これはサブナノ秒の時間分解能を持ち、これにより短寿命な発光現象のダイナミクスの解析が可能となる。その一方で、放出される電子の時間間隔(数十ns)に対して、はるかに大きい時間スケールの発光現象については、光子間の相関が埋もれてしまい、測定が困難である。そこで、パルス電子銃を利用することで電子パルスの時間間隔を選択することで、広範囲の時間スケールの発光現象に対し適用可能なシステムの構築に取り組む。
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