研究課題/領域番号 |
23KJ0958
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分01070:芸術実践論関連
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研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
山田 真理子 お茶の水女子大学, 人間文化創成科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
2024年度: 500千円 (直接経費: 500千円)
2023年度: 500千円 (直接経費: 500千円)
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キーワード | ピアノ奏法 / 重量奏法 / トバイアス・マテイ / トーマス・フィールデン / ピアノ教育法 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、これまで研究範囲が理論書に限定されてきた20世紀初期英国のピアノ奏法の展開を、師弟間の奏法の伝播に着目するという新視点をもって、その一端を解明することを試みるものである。具体的には、英国最古の音楽院である、ロイヤル・アカデミー・オブ・ミュージックにおいて1876年から1925年まで、ピアノの指導を行っていたトバイアス・マテイTobias Matthay(1858-1945)と、彼の弟子が書き記した言説資料を精読する作業を通じて、実践現場に即したアクチュアルな音楽教育の実態を解明することを目指す。
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研究実績の概要 |
英国において、20世紀初頭は、ドイツで発案された重量奏法(上肢全体を利用する近代ピアノ演奏法)が普及しつつあった時期である。しかし、発案国であるドイツにおいてさえ、重量奏法の教授法は、未だ試行段階にあった。王立音楽アカデミーRoyal Academy of Musicや王立音楽院Royal College of Musicなどの音楽院に勤めていたピアノ科教授らは、重量奏法の教授法を自ら考案し、音楽雑誌や著書などの媒体で発表した。 本年度は、英国の音楽院のピアノ科教授らが、重量奏法の教授法をどのように確立したかについて調査した。 本年度の研究により示されたのは、王立音楽アカデミーのピアノ科教授であった、トバイアス・マテイTobias Matthay(1858-1945)が、指番号(指の配置を示す記号)を基に、身体の使い方を学習させる手法が一般的であった英国において、生理学・解剖学などの知見を演奏教育の分野に取り込み、重量奏法を説明する手法を確立したと評価されていたことである。マテイが、彼の主著『タッチの動作』(1903)で示したこの教授法は、トーマス・フィールデンThomas Fielden(1883-1974)など音楽院の教授らに取り上げられ、生理学・解剖学的観点から身体の使い方を示す手法が、英国独自の系譜として定着した。 一方で、フィールデンは、1920年代に発表した複数の論考の中で、未だ、旧来の指奏法の時代の教育が行われていると主張した。彼がどのような文脈で上記の主張をしたかに注目すると、19世紀後半に英国各地の音楽院によって主導された、演奏の習熟度を測る制度である地方検定が浮かび上がる。同検定の記述問題が指遣いに関する出題に集中していたことから、地方検定が、フィールデンが主張するところの旧来の教育法を醸成する土壌として機能したと考察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
王立音楽アカデミーや王立音楽院のピアノ科教授らの著作物の調査に関しては、おおむね予定通り進めることができた。一方で、サイバー攻撃の影響で、大英図書館において閲覧を予定していた資料の大半が閲覧できなかったという点で課題も残った。一部調査内容の予定を変更し、王立音楽院や王立音楽アカデミーの資料調査に切り替えた。
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今後の研究の推進方策 |
次年度の研究は、王立音楽アカデミーのカリキュラム、クラス編成などの情報の調査を中心に進める予定である。音楽院研究が進んでいる大陸諸国に対し、英国の音楽院研究は十分に行われておらず、未だ、当時のカリキュラムやクラス編成などの情報が明らかにされていない。 一方で、王立芸術協会Royal Society of Artsの会報誌に掲載された、音楽教育委員会の連載記事(1865-66年)に注目することで、これらの情報が明らかになることが本年度の調査によって明らかになった。カリキュラムなどの情報が明らかになることによって、王立音楽アカデミーの生徒であり、同校でピアノ科教授となったマテイが、新しい教授法を確立するに至った背景が浮かび上がると考えたためである。本調査結果を国内学会で発表する予定である。
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