研究課題/領域番号 |
23KJ0999
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分43010:分子生物学関連
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研究機関 | 総合研究大学院大学 |
研究代表者 |
鳩山 雄基 総合研究大学院大学, 生命科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
1,800千円 (直接経費: 1,800千円)
2024年度: 900千円 (直接経費: 900千円)
2023年度: 900千円 (直接経費: 900千円)
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キーワード | DNA複製 / 改良オーキシンデグロン法 / 細胞周期 |
研究開始時の研究の概要 |
DNAの複製は生物の生存や増殖に必須な過程であり、この分子メカニズムはこれまで主に酵母を用いて詳細に解析されてきたが、実はヒト細胞では、主に技術的ハードルから詳細な解析が行われてこなかった。そこで私は所属研究室で開発された、複製因子の解析に極めて有効であるAID2法を、酵母で特定された複製開始領域を規定するタンパク質ORC1に適用する。これにより、ヒト細胞においてどのような分子メカニズムによってDNAの複製を開始する場所が決定されているのかを明らかにすることを目指す。
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研究実績の概要 |
哺乳類細胞において、どのような分子メカニズムによってDNA複製開始領域が決められているのかを明らかにするために、複製起点認識複合体(ORC)のうち、ヒト細胞において必須性に議論があるORC1の解析をおこなった。解析に際して、ヒトHCT116培養細胞株を材料に、所属研究室で開発された改良オーキシンデグロン(AID2)法を用いてORC1の分解除去を試みた。しかしながら、AID2による分解はORC1の解析には不十分であることが判明した。そこで、BromoTagという別のデグロンとAID2デグロンを2つタンデムに繋げたダブルデグロンを開発することにより、ORC1の分解効率強化を図った。実際にダブルデグロン技術により、ORC1の分解効率を強化することに成功し、ヒトでのORC1の必須性を証明した。別の複製因子CDC6においても、ダブルデグロンでの分解強化、必須性を証明でき、当技術の汎用性を確認した。さらに、ORC1、CDC6の両方を同時にダブルデグロン法により強力に分解した結果、DNA複製を完全に抑制することに成功した。このことから、DNA複製の開始経路は出芽酵母とヒト細胞で共通しており、別の分子経路は存在しないことを明確に示した。興味深いことにDNA複製を完全に抑制すると、ヒト細胞はDNA複製が生じないまま細胞周期を進行させ、分裂期まで移行することを見出した。この分裂期では姉妹染色分体を持たない一本の凝集した分裂期染色分体を形成していることから、DNA複製が全く起きなければ細胞周期はDNA複製から完全に独立して進行することを見出した。この結果は細胞にはDNAが複製されたかどうかを認識するチェックポイントが存在しないことも同時に示唆している。当成果は国内学会で二度、国際学会で一度報告した。これらの結果を論文として取りまとめ、国際学術誌出版に向けリバイス版を作成している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画通り、ORC1のヒト細胞での重要性を評価する際に、新たに開発したダブルデグロン法によりORC1がヒト細胞でも細胞の増殖、生存に必須であることを突き止めたが、強力なORC1の分解除去後でもDNAの複製は開始していることが判明した。これにより、まだわずかに残っているORC1により複製経路が進んでしまっているのか、それともヒト細胞ではORC1の経路に依存しない別の複製経路が存在するのか、という疑問が生じた。よって当初の計画ではORC1とMCMヘリカーゼのゲノム上マッピングを計画していたが、より根本的疑問である当問題の解決を目指した。そこで、ORC1と同一の分子経路にてMCMヘリカーゼをクロマチン上にローディングすると考えられている別の因子CDC6を、ORC1と同時にダブルデグロン法により強く分解除去できる細胞株を作成した。ORC1とCDC6を同時に強く分解した結果、DNA複製の開始は完全に抑制されたため、この経路がヒトのDNA複製にも必須経路であることを証明できた。さらにこの完全な複製阻害時に細胞は分裂期まで進行したことから、細胞周期の進行はDNA複製から独立して進行できることを見出した。よって本研究により、計画外の新たな知見を得ることに成功し、当初計画していた以上の今後の発展性が見込まれると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度は研究計画を変更し、引き続き複製をバイパスして分裂期へ移行する現象について、より詳しい解析を行う。本細胞株を用いることにより、複製の開始を完全に抑制することができるため、DNA複製と細胞周期、チェックポイントの関係性を明確にすることが可能である。複製が完全に抑えられた際に細胞周期の制御に関与するサイクリンやCDKの発現等を網羅的に解析することや、複製時のチェックポイントの刺激となりうる複製フォークにおけるどの様な因子が、実際のチェックポイント制御に関わっているのかなどを調べることによりこれらの関係性を明確にしていく。また、複製をバイパスして分裂期に移行した細胞は姉妹染色分体を持たないことからうまく分裂することができずM期で停止するが、その後細胞はどのような運命を辿るのかについても、細胞周期マーカーFucciシステムなどを用いてライブイメージングすることで追跡する。さらに、当細胞株は複製なしに細胞周期を進め染色体形成までされることから、核内動態解析や染色体形成分野での研究においても優れた研究材料となることが期待される。他分野の研究室との共同研究も計画している。
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